No.97(2009年6月号から)

後継問題抱えた金正日の賭け!

核保有国として国際的認知狙う北朝鮮


 昨年脳卒中に倒れ、今も半身が不自由な金正日将軍にとって後継問題を解決し、国際的認知を得ることは政権の脆弱性を克服する問題なのである。

 先にミサイル実験を実施し、5月25日に「自衛的核抑止力を強化するために」地下核実験をおこなった北朝鮮は、国連安全保障理事会での非難と新たな決議の動きに反発し、新たに大陸間弾道弾の実験を実施する動きを強めている。北朝鮮が得意とする瀬戸際外交だが、今回の脅しは金正日が倒れた後だけに背水の陣とも言える凄みがある。

 一人の指導者に北朝鮮の全権が握られており、その人物が病に倒れるということは「王朝の存続」にとって体制的危機を露呈したことであり、その挽回策として今回の軍事的強硬路線が出ているのである。一国の指導者が世襲であるということは、それは社会主義とは言えず、王朝であり、王朝が倒れる時は後継問題がこじれた時であることを歴史は教えている。

 金正日将軍は最近、側近達の前で三男の正雲氏(26才)を「若大将に貫禄が出てきた」と繰り返す(毎日新聞)ことで、後継が三男の正雲であることを表明したと言われる。後継を決定することと、核保有国として国際的認知を得ること、封じ込めを打破し、国際社会の一員になることは金正日の残された課題である。

 北朝鮮は現在経済再建を目指す「150日戦闘」を展開しており、金主席の生誕100年となる2012年の「強盛大国」実現を国家戦略として核ミサイル開発を進めてきたのである。つまり北朝鮮の今回の「瀬戸際外交」は3代目へのバトンタッチの前に、核保有国としての国際的認知を得て国家の安全を万全にしたいとの金正日の勝負手と言えるものである。

 アメリカにとっては、北朝鮮の限定的核保有は日本をアメリカの核の傘の下につなぎ止める上で必要であるが、自国の脅威となる大陸間弾道弾は容認できず、同時にイスラム圏への核とミサイル技術の拡散はイスラエルの安全に関わる重大事なのである。国連安保理でアメリカが北朝鮮の船舶への臨検を盛り込んだ決議案を各国に提示していることは、イスラエルの脅威となる核拡散の防止を重視しているからである。

 日本政府・自民党内に最近「敵基地攻撃能力の保有」論が出ていることは注目する必要がある。「ミサイル発射基地を攻撃する能力について具体的に検討していくことは当然だ」(安倍元首相)「敵基地攻撃能力を検討する時期だ」(中谷元防衛庁長官)  日米安保条約において、アメリカは矛、日本が盾の役割分担が決まっているが、日本が爆撃機や巡航ミサイルを保有することは対米従属の下での役割分担の強化であり、そこには集団的自衛権行使の憲法解釈の変更や海外派兵の恒久法制定や米製兵器の購入が前提条件となることを見ておかなければならない。

 対米自立なしに敵基地攻撃能力を日本が持てば、アメリカの戦争に動員されることになるだけなのである。つまり対米自立の戦略論議なしに「敵基地攻撃能力の保有」を口にするべきではないのである。北朝鮮が核を放棄することは絶対にありえず、逆に北朝鮮の核の限定的保有が日本の対米従属を固定化する上で有益であるとアメリカや中国は見ているのである。

 世界第2位の経済力を持つ日本を対米従属下に置くことに米・中が利益を見い出している以上、中国は常任理事国として北朝鮮の制裁骨抜き、北東アジアの現状の固定化の下で“金王朝”の世代交代を容認することになるであろう。

 金正日の軍事的強硬路線に安保理が制裁に踏み切れるのか?はなはだ疑問である。形だけの制裁ですませ、世代交代を容認して北朝鮮の変化を待つ以外にアメリカの選択肢はないように見える。

 アメリカの戦略的重点は中東であり、北朝鮮と戦争を闘う力は残っていない以上、金正日の強硬路線の勝利は動かないであろう。アメリカは北朝鮮に逮捕されている2名の女性記者の解放を条件に北朝鮮に援助を与える可能性がある。米中が北東アジアの現状固定化を望んでいるので、日本は拉致問題をタナ上げして北朝鮮政策の転換を迫られることを、今のところ逃れているのである。

 自公政権の対米追随一辺倒の主体性のない外交では拉致問題の解決は不可能と言うべきである。

 日本はアメリカへの防衛依存を軽減することで、北朝鮮との平和条約交渉、したがって戦争賠償問題の解決に踏み出すことが必要である。これなしに拉致問題の解決は難しいであろう。