No.94(2009年3月号から)

迷路に入りつつある米金融危機

膨張する不良資産の前に資本注入も効果なし


   米保険大手のAIGが3月2日、08年10〜12月期決算で616億ドル(約6兆円)もの赤字を計上し、米政府から最大300億ドルもの追加支援を受けることが決まった。

 これまでにAIGは1500億ドルの支援を受けていたが巨額の損失に歯止めがかからず今回の追加支援となったものである。

 米政府は金融大手シティグループの政府管理に続き、今回の追加資本注入に踏み込んだが、この300億ドルも「当座の資金手当」であり、膨張する不良資産の処理が進まないまま救済規模が底なしに拡大し、破綻回避のその場しのぎの注入を続けている。つまり金融危機の抜本的解決の見通しが立たないまま事態の悪化が続き、大手銀行の経営不安が広がり、米株価の低迷が続いている。

 米商務省が2月27日に実質国内総生産(GDP)の伸び率が年率換算で前期比マイナス6.2%になったことを発表した。また米労働省が3月6日に発表した2月の雇用統計は大幅に悪化し、失業率は前月比8.1%に悪化し、約25年ぶりの高水準となっている。この3ヶ月での失職者数は200万人規模になっている。

 つまり米経済は金融資本への公的資金の注入も、公的管理下での再建も成功しておらず、信用不安の中で企業業績が一層悪化する事態となっている。

 ガイトナー米財務長官は主要20カ国・地域(G20)財務省・中央銀行総裁会議を前に記者会見し、世界経済の回復へ各国が国内総生産(GDP)比で2%規模の財政出動で協調するよう呼びかける考えを表明した。しかし欧州諸国は財政出動に慎重な対応を取っている。欧州は金融危機の再発防止へ向けヘッジファンド規制について国際的な監督体制を整えることが重要と考えている。米国はヘッジファンドへの厳しい監督には慎重で、せいぜいヘッジファンドの登録制までといわれている。

 欧州諸国は、財政出動によって財政が悪化すると単一通貨ユーロの信認が低下するので、アメリカの提案は受け入れられないのである。オバマ米大統領はヘッジファンドに支持されて大統領に選出された経緯からヘッジファンドへの強い規制は受け入れられないのである。またドル安を回避するため各国に財政出動を求めているのである。

 米金融危機脱出のめどが立たない中でオバマ大統領は、2月27日イラク駐留米軍を1年半で9万人以上撤退させることを発表した。残存兵力も最大5万人まで確保することにしている。また3月4日にはオバマは国防費改革として軍の主要装備の調達を見直す方針を表明した。

 オバマのこうしたイラク撤兵と装備調達の見直しは、ブッシュ政権下で進んだ軍事費と戦費の肥大化が、アメリカ経済を疲弊させたという認識に立っているからである。しかし一方ではオバマの10会計年度の国防予算は5337億ドル(約52兆円)で09年度比4%増である。しかもイラクに最大5万人の兵力を残し、アフガンに兵力を増強する方針を出していることは疑問を抱かせるもので、オバマ政権の中途半端な戦略を反映している。

 軍事国家アメリカの「息継ぎのための和平」の戦略は、中途半端では成功しないと思われる。しかしこのオバマの折衷主義的戦略は中東が産油地帯であるという点からきている。

 重要な事は、オバマの折衷主義が金融危機に対する対策にも表れているという点である。米金融資本への際限のない公的資金の注入は、当面の危機を一時的に取り繕う事でしかなく、金融危機の根本的解決策にはなっていないのである。

 オバマの、この中途半端な傾向性は、事態の深刻さに対する認識に甘さがあり、それは国防大臣に共和党の閣僚を留任させた超党派的対応にも表れている。

 折衷主義のオバマには金融危機の再発防止につながる徹底したヘッジファンド規制は取れず、信用崩壊に対する抜本策もないまま、公的資金の注入の繰り返しでは危機の先送り程度にしかならずアメリカ経済は「失われた10年」の迷路に入る可能性が強いのである。