No.94(2009年3月号から)

経済危機の中で軍の影響力強まる中国

成長する大国主義の影で高まる社会不安


 9万人近い死者を出した四川大地震、そしてチベット暴動で揺れた中国は、北京オリンピックでひと息ついたと思われたが、その後の「金融津波」に呑み込まれて「改革・開放」後最大の危機を迎えている。

 今年2月の中国の輸出は前年同月比−25.1%輸入が−24.1%であり、企業倒産・解雇が相次いで約2000万人以上の失業者が出ている。今年末には失業率は9.4%前後に増えると見られている。また人民の中に政治腐敗と貧富の格差拡大から党官僚への不満が高まっている。

 3月5日に開幕した全人代で温家法首相は「我が国の経済発展にとっても、最も困難な1年になる」と強い危機感を表明した。

 政府活動報告は8%の経済成長を確保する「保八」の方針を出したが、大規模な財政出動によっても目標達成は容易ではないと見られている。人口13億人の中国では、雇用、所得を増やすには8%成長が不可欠だが、輸出が大きく落ち込んでいる状況では、労働者・農民の生活を維持することは難しいと見られている。

 発表された4兆元(約58兆円)の内需拡大策の内、中央政府の負担は1兆1800億元(約17兆円)、残りは地方や民間の資金だが、地方は財源が乏しいのでこの数字自体根拠がない。しかも党幹部の利権に対する汚職・浪費がすさまじくどこまで景気対策となるか分からないのである。したがって今年6月に大学を卒業する約600万人に仕事を与えることは難しい状況と言われている。つまり失業者が今後何千万人出るか分からないのに、毎年新しい休職人口が増え続けるのである。すでに減少した輸出分を内需拡大でカバーすることは困難で、社会不安が高まる可能性は強いのである。

 元々中国の農村は、都市近郊を除いて自給自足の経済であり、こうした農村をどのように商品経済にしていくのか、この間まで輸出主導の中国経済を、公共事業でその波及効果が出るとも思えない。人口の多さは市場の大きさを意味しないのである。すでに今年2月には、中国各地で暴動が発生しており、中国政府は警戒を強めている。

 このように中国国内の動乱が避けられない中で、軍の力が増大していることに注目しなければならない。経済危機だというのに軍事費が前年度比14.9%も増加したこと、ミサイル戦力の増強や、6万トン級の原子力空母2隻建造の動きは「国連の常任理事国で空母を持たないのは中国だけ、大国として当然保有すべきだ」との軍内の大国意識が反映したものである。

 中国海軍は、アフリカのソマリア沖への軍艦3隻の派遣に見られるように、遠洋作戦能力を強化しつつある。つまり中国軍は国土防衛から海外の中国の権益を守る覇権主義的な軍隊への転換を進めているのである。軍の内部に「世界各地に遠洋基地を作るべきだ」との主張まで出ていることに注目すべきである。

 中国は現在世界一の外貨保有国であり、この外貨でアフリカ等への援助で資源獲得外交を展開している。

 胡錦濤国家主席が今年1月26日の春節(元旦)を革命根拠地の井岡山(せいこうざん)で祝ったことは、軍や党内保守派へのすり寄りである。北京オリンピックで国家的威信を膨らませた中国は、直面する経済危機の中で民族主義(中華思想)を強め、地域覇権主義へと突き進んでいる。

 胡指導部が軍をコントロールできない可能性を考慮しておくべきである。つまり中国は経済危機の中で社会不安の高まりと、少数民族の不満の中で軍部の台頭を抑えられない状態になりつつあることを見ておくべきである。