No.91(2008年12月号から)

黒人大統領はアメリカを救えるか?

支持者裏切るオバマの人事


   「チェンジ」を掲げたオバマにはサブプライム債権の崩壊を原因とする金融危機が大統領選に有利に働いて勝利した。オバマの支持層は黒人や学生・労働者であり、民主党左派・リベラル派の人々であった。

 オバマは牧師の話術を学び、抽象的に「チェンジ」を訴え、変化を求める人々の支持を集めた。しかし大統領選挙勝利後の政権人事を見ていると、人材のほとんどがクリントン政権時代の人々である。「チェンジ」を実現するのに、古い人材で達成できるのか?と疑問に思わざるを得ない。少なくともリベラル派と労働者はオバマの人事に裏切りの臭いをかいでいるに違いない。

 オバマの胡散臭さは、リベラル派を装いながら、アフガニスタンとイランに対しては強硬姿勢を見せていることであり、とりわけ共和党のゲーツ国防長官の続投の人事に示されている。

 自動車大手「ビッグ3」の救済をめぐっても、抜本的なリストラの実施を条件にしていることを見ても就任早々支持層であった全米自動車労組の労働者達には厳しい対応となった。

 オバマ新政権のエマニュエル大統領首席補佐官はユダヤ系であり、ヒラリー・クリントン(国務長官)もイスラエルに近い、しかも国防長官は共和党政権からの留任である。これは対イラン・アルカイダ布陣と見える。

 主要国が経済危機に直面して「内向き」を余儀無くされる局面にある。しかもアメリカは国家財政の破産に直面しており、したがって対外援助や軍事費を削減せざるを得ない、したがってアメリカの国際的影響力が衰退するのは決定的である。

 オバマは当面外交で「話し合い」と協調のスタンスを取り、アフガニスタンには兵力を増強しつつ、主要には内政、とくに経済危機への対応で忙殺されることになるであろう。オバマが高速道路網整備や公共の建物のエネルギー効率の改善、学校や医療システムの近代化、情報スーパーハイウェイ再構築、太陽光発電など公共事業で雇用創出に成功するには時間がかかるであろう。当面は自動車産業のリストラをせまらざるを得ない。

 アメリカの失業者は急増しつつあり、金融危機はまだまだ深刻化し、その出口はまだ見えないのであるから、オバマを大統領に選んだアメリカ人民の希望は幻滅へと変わることになりかねないのである。つまりアメリカの国内外の指導力は減退し、長期の苦難がオバマ政権を待っている。

 オバマにとっては中国と日本等に米国債を大量に買わせることが重要な仕事となっている。ドルが急落しつつある中で米国債を買うことは、アメリカの借金を肩代わりして支払う事であり、日本と中国がそれを受け入れるかどうか注目されることになる。

 オバマは選挙中にアフガニスタンへの増派を語ったが、反米勢力は戦線をパキスタンに拡大しつつあり、アメリカの侵略は結局失敗するであろう。アメリカの日本に対する貢献要求も強まることになるのは間違いない。

 世界同時不況で発展途上国の受ける経済的打撃は、資源価格の下落と援助の削減が重なって大きなものとなり、少なくない国が階級矛盾や民族矛盾や部族間対立や宗教的対立で動乱に巻き込まれることになるであろう。

 不況の深刻化とともに保護貿易主義の広がりによって、世界貿易の縮小が続く可能性があり、世界大恐慌の危機は一層強まっている。

 かつての大恐慌が世界大戦を招いたように、今回の世界同時不況が戦争と動乱を招く可能性は強いのである。

 時代は歴史的大激動に突入しているのであり、若いオバマ大統領でアメリカの威信が守られるであろうか?アメリカの人民大衆がオバマの裏切りに気付いた時、アメリカは暴動の時代に突入するか、オバマ暗殺の可能性もあり得る事なのである。

 今年11月のアメリカの就業者数は53万人減少している。オバマの雇用創出策が間に合うかが注目点である。自動車産業はアメリカ経済のGDPの10分の1を占めている。この全米自動車労組に人員削減と賃下げと年金削減を受け入れさせることが、オバマにできるであろうか?  アメリカの問題銀行は全米で171行あり、3ヶ月前より5割近く増えている。今後この数字は一層増えることになる。アメリカの不良債権は1000兆円とも言われている。米連邦準備制度理事会(FRB)は最大8000億ドル(約77兆円)を金融対策に投入する。しかしこの金額では不足することは明白であり、アメリカは際限のない公的資金注入に直面している。

 今後住宅ローン破綻に続き、カードローンの破綻や商業向け不動産ローンの破綻が続く、ドル崩壊と財政破綻の可能性も出てくるであろう。アメリカが一極支配の経済的基盤を喪失することは疑いない事である。アメリカの国際的威信を保つ、そのためのアフガンへの兵力増強なのだが、それでも威信の低下は避けられない。だからこそ「ソフトパワー」の外交しかないのである。

 オバマがアメリカの第二次大戦以来の危機を克服できるか注目したい。