No.89(2008年10月号から)

日本の対米自立への戦略転換の好機とせよ!

金融恐慌と大統領交代局面


 アメリカ政府が最大7000億ドル(約75兆円)の公的資金を投じる金融安定化法の成立によっても、アメリカの金融危機脱出の先が見えない。銀行間で日々の資金を融通し合う短期金融市場は「潰れるかも知れない銀行に金は貸せない」との疑心暗鬼から、市場がまったく機能しなくなっている。

 アメリカ政府がこれまでに表明した公的資金・金融支援の総額は計140兆円となった。

 アメリカの信用不安は欧州にも波及しただけでなく世界的規模で株価が下落し、過去最高だった07年10月末に比べ2000兆円以上も株価の時価総額が目減りした。このことは、世界の名目国内総生産(GDP)の4割を超える価値がアワと消えたことになる。

 一説にはアメリカの不良債権の総額は500兆円とも700兆円とも言われており、今回の75兆円の公的資金の投入で危機が一時的にしのげても、危機はさらなる拡大と波及を必然としている。

 つまりアメリカの金融危機の深刻さは、不動産価格が今後一層下落するので、むしろこれからアメリカ経済は何年も苦境が続くと見られる点にある。つまりアメリカの経済的困難は長引くと見ておくべきである。

 今回の金融危機は、グローバリズムの名でアメリカが進めた、いわゆるワシントン・コンセンサスと呼ばれる政策の破綻である。金融自由化、規制緩和、民営化が自由放任の“欲望の資本主義”を極限まで煽りたてた結果、コントロール不能の巨額の投機資金が欲望のおもむくままに投機され実体経済に打撃を与え、“カジノ経済”“マネーゲーム”は莫大な架空資本を増殖し、バブル経済(信用バブル)を空前の規模に膨張させたのである。

 「金融工学」と表現される住宅債権の証券化商品は、根拠のない格付けで信用を人為的に創出し、ついに大破綻を招いたのである。

 月が満ちれば欠け始めるように「物事は極まれば反転する」のである。住宅や土地や株が永遠に上り続けるなど有り得ないのである。

 金融危機はすでに欧州へと波及しており、日本のバブル経済崩壊以上の深刻さと、広がりを持っている。

 すでに世界経済は1930年代の大恐慌以来の連鎖的危機を生みつつあり、アメリカ経済の打撃は深刻なものとなりつつある。アメリカはイラク戦争と「反テロ戦争」で莫大な財政赤字を抱えており、その上に公的資金注入の巨額の赤字がのしかかることになる。

 不況の深刻化で税収入は大きく減少し、支出は増大するのは必至であり、ドル暴落の可能性は強まっている。

 アメリカの大金融危機は、現在闘われている大統領選にも影響し、民主党のオバマが勝利する可能性が強い。当面アメリカは内政に集中せざるを得ず、覇権主義的軍事行動は終末へと向かうことになる。

 今回の大金融危機は、アメリカの巨大な軍事力を維持する経済基盤に大打撃となり、世界は一極支配から多極化の時代へと変わるであろう。新大統領は金融危機の回避に忙殺されることになるだけでなく、貿易黒字国の日本や中国に支援・協力を求める事になる。

 アメリカもEUも経済危機克服に向けて内向きになる局面であり、日本は対米追随一辺倒から戦略転換し、対米自立の必要条件を整える多極外交のチャンスが来ている。

 日本は内需拡大の政策に転換するとともに、対ロシア外交を戦略的レベルに位置付け、シベリアの開発と、シベリア鉄道を通じた新市場を開拓し、ロシアとの相互依存関係を強化する好機を生かすべきである。

 ロシアは原油価格暴落とグルジア介入で外資が逃避し、経済的困難に直面している。ロシアは北東アジアとの関係に期待するしかない。すなわち日本とロシアの関係を改善する戦略的好機が来ていることを見て取らねばならないのである。

 アメリカのブッシュが、コソボ独立で、やりかけた“対ロシア新冷戦”は、今回の大金融危機で破綻せざるを得ず、ブッシュ後の新大統領(おそらく民主党のオバマ)は、戦争路線から転換し「息継ぎの平和」の戦略を取ることになる。

 日本は今後アメリカの求める不良債権の“リスク負担”は極力回避しなければならない。日本はバブル崩壊を独力で10年かかって克服したのであり、アメリカのバブル崩壊は、アメリカ自身が負担すべきものである。

 日本はこの点を鮮明にして、総選挙後の新政権が、対米追随一辺倒を転換し、アメリカの金融危機に巻き込まれるリスクを最小限にして戦略的独自性を守る必要がある。

 アメリカの金融破綻と大統領交代を、日本の戦略的転換の好機とするには、対米追随一辺倒の自民党ではダメであり、総選挙で民主党を中心とした政権が必要条件となっているのである。

 アメリカは今回の金融危機から脱出できたとしても、もはや覇権を維持できず、したがって巨大な軍事力を削減し、普通の国にならざるを得ない。世界は「合従連衡」の多極外交の時代を迎えつつあり、日本は対米自立の好機を生かさねばならない。