No.89(2008年10月号から)

公的資金注入の効果なし

世界は「混乱の過渡期」に突入


   金融市場は機能停止状態となり、世界中の株安により約1ヶ月で1400兆円が消滅した。10月10日の主要7ヵ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)は、主要金融機関に対する公的資金の資本注入などを盛り込んだ行動計画を発表した。

 10月14日ブッシュ米大統領は、公的資金2500億ドル(約25兆円)の資本を、米金融大手9社などに注入することを発表した。

 欧州ではドイツが約11兆円、フランスが約5兆6000億円、イギリスが約8兆9000億円の資本注入を13日までに発表した。こうした公的資金(税金)の資本注入発表によって、アメリカの株価は一時的に上昇したが、その後資本注入の効果に懐疑的な見方が広がり、また実体経済への悪影響が広がるのはこれからとの見方から、株価は再び大きく下落した。

 アメリカの住宅不動産市況は下落を続けており、今後1年以上はこの下落は続くと見られており、不良債権は今後も増大し続けることになる。欧・米の銀行間金融は機能停止が続いており、各国の金融機関が資金調達する唯一の方法は各国の中央銀行の融資のみとなっている。

 アメリカの場合、公的資金の注入は、不良債権が巨額でありすぎて、危機克服の決め手とはなりそうにない。逆にアメリカの財政赤字が08会計年度で46兆円と過去最悪となり、ドル暴落の可能性が出てきた。イラクやアフガン駐留費など軍事費や金融危機対策、さらには景気減速による税収の減少で、財政赤字は09会計年度も悪化は必至となっている。

 アメリカ政府が経済危機対策で連邦預金保険公社(FDIC)が保証することになった金融機関の債務は約1.4兆ドル(約142兆円)で、公的資金による金融機関への資本注入などを含めた総額は最大2.6兆ドル(約265兆円)にのぼる。このまま民間銀行間取引の機能停止が長引けば米連銀と財務省が唯一の貸し手となる状況が続き米財政赤字が増え続けることになる。

 このままでは近い将来ドル不安を招き、アメリカ国債の買い手がなくなり、米政府の債務不履行もありうる局面を迎えることになる。

 またドル暴落に脅えて中国や産油国がアメリカ国債の売り逃げを図る可能性もありえる。ドル暴落の可能性は日々高まっていると言える。

 今回のアメリカ発の金融恐慌は、ソ連崩壊後冷戦の勝利に有頂天になったアメリカ金融資本がグローバリズムの経済戦略を進め、金融自由化を各国に押しつけ、世界をドルによる金融支配(一極支配)する野望を抱いて、世界中でマネーゲームを繰り広げ、そのためニセのノーベル賞(経済学賞)まで利用して債券化商品を組み合わせた「金融工学」を褒め称え、偽りの格付けで信用を膨張させ、巨額の信用創造によって莫大な利益をむさぼった結果のバブル経済の崩壊であった。

 「物事は極まれば反転する」アメリカが自由化・規制緩和・民営化の政策で、とことん市場経済を自由放任した結果“欲望の資本主義”は、信用バブルを引き起こし、現在は収縮過程へと入っているのである。

 欧米先進国(=NATO諸国)の今回の大金融危機は、かつてのソ連崩壊に匹敵するアメリカ型資本主義の崩壊であり、アメリカ政府の公的資金の注入は、アメリカ金融資本の“敗北宣言”と言えるものである。

 世界は経済的・政治的混乱の時代に突入しつつある。今後の世界はアメリカの一極支配の崩壊から、「混乱の過渡期」を経て多極化の時代を迎えることになる。

 各国政府は、「混乱の過渡期」を乗り切る戦略を持たねば生き残れない事を知るべきだ。