No.87(2008年8月号から)

ロシアの非米多極化戦略の進展に注目!!

グルジアとロシアの軍事衝突の背景!


 今回の軍事衝突の、一方のグルジアは旧ソ連の親米国で北大西洋条約機構(NATO)加盟をめざしている。他方のロシアはグルジアの中の独立分離派が握るアブハジア自治共和国を支援し、平和維持軍を派兵している。

 北京オリンピックの開会に合わせて発生したロシアとグルジアの軍事衝突は、単にアブハジア独立問題だけが原因ではない。

 グルジアが米軍に、グルジア軍の軍事訓練をゆだねるなど親米的姿勢であること、ならびにグルジアの存在するコーカサス地方はカスピ海地域の石油や天然ガスのパイプラインが通る戦略的要衝であることが影響している。

 欧米は、カスピ海地域の石油とガスをロシア経由ではなくヨーロッパまで運ぶことを狙って、チェチェン、グルジア、トルコ経由のパイプラインを作った。

 アメリカは東欧のチェコとポーランドにミサイル防衛(MD)の基地を配備しようとしており、ロシアはこれに強硬に反対している。またグルジアのNATO加盟に対しても警戒を強めており、ロシアを敵視しているNATOの解体を目指している。

 現在のロシアの中枢を占めるプーチンの人脈は旧ソ連の高官達であり、彼らは、国家主義者である。

 彼らはエリツィン時代にアメリカがロシアに対し「急激な資本主義化」を指導し、わざと経済を破綻に導き、戦略核兵器の解体を迫った事を知っている。したがってロシアの現在の戦略は、世界の天然ガスの埋蔵量の16%を押さえる世界最大のガスプロムを国有化し、EUへのエネルギー輸出でロシア経済を再建し、戦略的には中国、インド、イラン等と上海協力機構を結成し、この非米同盟によって多極世界を目指しており、ルーブルをドルやユーロと並ぶ国際通貨とすることで、通貨面でも多極化を狙っている。

 最近ロシア政府は、中央アジアのトルクメニスタンなどの天然ガスを全量「国際価格」で買い取ることを約束した。またガスプロムが北アフリカのリビアの余剰の石油と天然ガスを全量買い取ることを提案するとともに、アルジェリアには同国とナイジェリアをつないで欧州と「サハラパイプライン」建設にロシアを参加させることを要請した。

 またロシアはイランとも石油・ガス田開発に関する協定に調印した。

 ロシアはEUへのエネルギー供給を通じて相互依存関係を強め、EUとの戦略的関係を築くことでアメリカとEUの分断を計り、NATOの解体をもくろんでいる。

 最近ロシア政府が、日本と協力し、シベリア鉄道の近代化を柱とする「ユーラシア産業投資ブリッジ」と呼ぶ、シベリア鉄道の近代化と浴線地域の資源エネルギー開発と産業育成を目指すことにしたのも、ロシアの多極化戦略の一環であることは明らかだ。

 アメリカのブッシュ政権がイラクとアフガン侵略で、中東の石油を軍事支配し、一極支配の延命をたくらんだが、結果として石油・天然ガスの高騰を招き、ロシア経済を復興させ、ロシアの非米・多極化戦略に手を貸すこととなった。

 ロシアとイラン、リビア、アルジェリア、ベネズエラ、インドネシアなど12カ国が進めている「ガス輸出国フォーラム」(GECF)の計画は、天然ガス版OPECであり、世界の天然ガス埋蔵量の7割、生産量の4割を占めている。これらはエネルギー輸出国の非米同盟と言えるものである。

 アメリカは旧ソ連諸国を取り込み、ロシア包囲網としてNATOの拡大を狙っているが、フランス・ドイツ等は、ロシアとの経済関係を強化することに魅力を感じている。EUがロシアからエネルギーを買うということは、ロシアの支払い能力ある市場をEUが得るということなのである。

 欧米のイラン制裁も、ロシアや中国やインドにイランの石油・ガス田の権益を奪い取られることになって意味を持たなくなった。

 世界の石油資源のうち欧米が持っているのは約1割といわれており、残りの9割は反米・非米の産油国が握っているのである。つまりエネルギーの面から見ればすでにアメリカの一極支配は崩壊しつつある。アメリカが石油埋蔵量世界2位のイラクを占領したのは、エネルギー面で追いつめられた焦りからであることは明らかだ。

 グルジアの国家指導者が、こうした世界の戦略関係が分かっていれば、NATO加盟の方針を出してロシアを挑発することはなかったであろう。グルジアは自国を守る力を持たないアメリカに乗せられたのである。

 中央アジアの石油・天然ガスを自国の戦略に生かす上で、グルジアのNATO接近はロシアにとって見逃せないほど重要なのである。

 今後ロシアはグルジアに親ロシア政権を作ることに全力を挙げるであろう。

 日本外交がグルジアに似て危ういのは、世界の多極化・非米化の動きに立ち遅れ、いつまでも対米追随していることで、戦略的にエネルギー、資源、市場で不利な立場に立たされていることである。

 日本はアジアの共同市場や、共通通貨構想や、対ロシア関係や、アフリカ、EU、南米に対する戦略的自立外交を展開すべき時が来ている。

 アメリカの覇権の衰退、EUの東方への拡大、ロシアの多極化戦略、中国、ロシア、インドの非米同盟、こうした戦略外交の中にあって日本は日米同盟の次に来る“多極化戦略”を構築すべき時である。すでにアジアで日本の脅威となる国が存在しない時代に、いつまでもアメリカの属国として日米同盟一辺倒では、多極化に乗り遅れることになる。

 多極化の時代には、その大半の勢力と相互依存関係を構築しなければ国の安全は保てないであろう。

 対米自立の時が来ていることを指摘しなければならない。