No.84(2008年5月号から)

10年ぶりの中国最高指導者の訪日

脆弱性はらむ中国走資派指導部の苦悩


 3月10日以降に発生したチベット族のデモ隊に、中国治安部隊は発砲し、チベット亡命政府の発表によれば、死者は203人に達している。かつてト小平時代、学生達の民主化運動に発砲して多数の青年を殺した。党官僚独裁のファショ的体質は何ら変わっていないことをチベットでの出来事は世界に示したと言える。

 中国治安部隊によるチベット人民のデモ隊への発砲によって明らかとなったのは、チベットが地球上最後の植民地であるという事だ。

 元社会主義国が党官僚独裁への変質によって出現する強権的国家主義は、旧ソ連のチェコスロバキアやアフガニスタンへの侵略、さらには中国のベトナムへの侵略に示されている。

 一党支配の特権的国家主義の抱える矛盾は、“建前の社会主義、実際の資本主義”が持つ脆弱性である。この脆弱性は旧ソ連の崩壊で立証された。中国の走資派指導部は、この事が分かっている為に常に大衆の決起を恐れ、狂気じみた弾圧を行うのである。

 毛沢東時代は全人民所有制と集団所有制であった中国に、新しくブルジョア階級が出現している。

 彼らは国家・人民の財産を横領して成り上がった党幹部とその一族であり、彼らは人民大衆の決起を死ぬほど恐れており、デモ隊は彼らにとってかつての文化大革命による一党支配の打倒を連想させるのである。文化大革命とは毛沢東が呼びかけた党官僚支配打倒の大衆運動の予行演習であった。従って中国指導部は、民主化を絶対に認める事は出来ないのである。

 チベット族の人達が北京オリンピックの聖火リレーを独立運動に利用する事は、正当な民族自決を求める運動であり、誰も非難することは出来ない。それは少数民族の自治を認めず、同化政策を取った結果に他ならない。こうして聖火が“争いの火種”となり格好のチベット独立運動に利用される事になった。

 中国政府は各国の聖火リレーに対し、中国人留学生に自国の国旗を持たせて動員し「愛国心」で聖火リレーを強行した。ところがこの愛国運動が反フランスデモとなってカルフールなどのフランス系のスーパーを標的にした青年大衆の抗議行動となって中国の15都市に拡大した。

 中国政府が青年達に愛国教育を行っているのは、人民の闘いの鉾先が自分達官僚支配層に向けられる事が怖いからである。それは3年前の反日運動に示されているように中国青年の闘いが日本やフランスに向かう方が、自分達の一党支配にとって安全と考えているからである。

 中国経済は原油高もあって現在急激なインフレで、労働者が生活苦に直面し、ストライキが増えている。つまり中国における階級矛盾は激化し、都市と農村の矛盾も激化している。

 中国の走資派指導部は、この国内的矛盾を解決しようと北京オリンピックを愛国運動の一大イベントとして利用をもくろんでいたのである。その為の聖火リレーであったのだがチベット動乱と四川大地震によって、その狙いは挫折しかかっている。地震で崩壊した学校などの建築が党幹部達のワイロ政治の結果「オカラ建築」(手抜き工事)であった事が表面化している。

 <成果なき   日中首脳会談のおそまつ>  チベット人民への発砲は、中国の国際的孤立を招いている。ドイツのメルケル首相は、北京オリンピックの開会式には欠席すると明言し、フランスのサルコジ大統領もチベット人弾圧を非難し、中国政府がダライ・ラマとの対話をしなければ開会式は出席しない事を表明した。

 オリンピックを前にしての国際的孤立は、中国指導部は回避したい所であった。幸いにも中国の隣国には、国民の支持率が18%にまで低下し、大衆から孤立した福田首相がいた。互いに外交を国際的宣伝に利用したいという共通の意思が、実に10年ぶりという国家首席の日本訪問となった。

 何の事はない、一方は国際的に孤立し、他方は国内的に孤立した指導者が“互いにキズを舐め合う”様な首脳会談となった。

 福田首相は、チベット問題やギョーザ事件には厳しい姿勢は示さず、ガス田問題も具体的成果はなかった。国内で”反日教育“をやっている指導者と会談して「日中友好」を語っても、国民はしらけるだけなのである。

 愛国運動を焚き付けた中国指導部が、この愛国運動に縛られて、日本との具体的妥協が出来ないという奇妙な首脳会談となった。

 日中の指導者は、ギョーザ事件をうやむやにして、日本の国民が納得して中国の食品を食べ続けるとでも思っているのであろうか?  同様に、日本領海内のガス田を一方的に盗掘しながら、中国の経済発展の為に日本の技術を求める中国指導者の態度は理解しがたいものがある。

 “中国は歴史認識には触れないから、日本はチベット問題には触れるな”という密約に基づく「日中友好」なら、問題は何も具体的に解決出来ないであろう。

 日本が中国に多額の経済援助をしているのだから、中国の異常な軍事力増強にもキチンと言うべきであった。福田首相はチベット問題でも、民族自決権を認めるように発言すべきだった。少数民族に発砲することと、オリンピック精神が矛盾しないとでも思っているのだろうか?これは内政干渉とはまた別の問題なのである。

 チベット問題の対応や軍事力増強ぶりを見ると、中国走資派指導部の北京オリンピックへの位置付けが、かつてのヒトラーのベルリンオリンピックの政治的利用と同じではないか、という点を指摘しなければならない。

 日本人民は、中国指導部が反動的民族主義と国家主義的愛国運動にオリンピックを利用する事に反対しなければならない。この異常な国家の暴走は、周辺国に重大な被害を及ぼすからである。

 この様に見ると、パンダでごまかされた福田首相の中国外交は評価出来ないのである。

 日本は中華思想に裏付けされた中国の危険な地域覇権主義を警戒しなければならない。今回の四川省の大地震の影響もあり、オリンピック後、あるいは上海万博後の中国経済のバブル崩壊の可能性とそれに伴う政治危機を外的矛盾に転化する可能性を常に見ておかなければならないのである。

 脆弱性ゆえに、官僚独裁国家の危険性を、日本の指導者は考慮して外交を展開しなければならないのである。