No.82(2008年3月号から)

変型プーチン体制で「強いロシア」めざす

メドベージェフ新大統領とロシア


   大統領選は、プーチン大統領(55)から後継者として指名を受けたメドベージェフ第1副首相(42)が70%もの得票で勝利し、5月にロシアの第3代大統領に就任する。

 プーチン現大統領は、憲法上2期8年で最高ポストを降りるが、メドベージェフ新大統領の下で首相に就任する。2月14日の記者会見でプーチンは首相の権限について「国防能力の整備や国家安全保障、対外経済政策の実施」が担当領域だと意欲を示したという(朝日新聞)。そうであるなら最高権力者プーチンのポストが首相となり、新大統領はプーチンの「院政」を支えるものとなる。

 プーチンが将来メドベージェフに権力を譲り渡し、引退するかそれとも再び大統領に復帰する“つなぎ”がメドベージェフなのかは今のところ不明である。

 ソ連崩壊後のエリツィン時代にアメリカは急進的資本主義化を指導し、わざとロシアを金融的破綻に追い込み、結果ロシアは巨大な核兵器体系の解体に直面した。

 ロシア国民は民族としての自身を喪失した。ところがプーチンの大統領就任後のロシアは、アメリカのイラク戦争後の原油高に救われ、経済は立ち直った。プーチンはエネルギー関連会社ガスプロムを国策会社として国家の統制下に置き、「強いロシア」の掛け声の中で戦略核戦力の再建を進めている。ロシア国民は民族としての自信を回復し、プーチン体制に強い支持を与えている。

 アメリカとEUの対ロシアの戦略は、旧ソ連時代の東欧諸国と中央アジア諸国を自分の経済圏に取り込むことである。そのためのEUとNATOの東方への拡大であり、軍事的にはミサイル防衛(MO)施設の東欧への配置なのである。

 NATOの東方への拡大についてプーチンは「世界は新しい軍拡競争に入った。始めたのは我々ではない」と語った。NATOは現在旧ソ連のウクライナとグルジアについて加盟を検討していたが、当面加盟候補国への認定を見合わせることにした。それはロシアを刺激しすぎることを避けたのである。

 ロシアは1基に核弾道10発を搭載する新型ミサイルの開発と多弾頭のミサイルを搭載した新型原子力潜水艦を建造し、経済的にはルーブルを地域の基軸通貨にしていこうとしている。ここにはアメリカの一極支配に対抗し、多極世界を展望しているプーチンの戦略がある。

 最近アメリカがシナリオを描いたコソボの独立は、セルビアに対する国際法違反の内政干渉であるが、その狙いは他民族国家ロシアの解体にある。さらには旧ソ連時代の東欧や中央アジア諸国の取込にある。それゆえにプーチンのロシアは断固としてコソボ独立を承認しない姿勢をとっている。

 「コソボ独立」後すぐトルコ軍が、自国内で独立運動を行なっているクルド族のゲリラ基地を一掃するとしてイラク北部に侵攻したように、またチベットの騒乱のように今後多民族国家での少数民族をめぐる内戦が激化することは避けられない。

 アメリカのコソボ独立の狙いはロシアと中国の解体にある。その実験場として位置づけられたのが旧ユーゴスラビア連邦であったわけで、今回のコソボ独立は世界中の多民族国家としては受け入れられないことであった。

 大国が小国内の民族問題に介入し、その独立に軍事的保障を与えることは国際法違反であり、このような大国の横暴がセルビアやロシアの民族主義に火をつけているのである。

 今後ロシアは、旧ソ連圏の地域に対し、エネルギーの供給とルーブルによる経済的影響を拡大していく中でNATOとの「新冷戦時代」といえる溝を深めていく可能性がある。なぜならプーチン自身がそうであるように、彼を支えているのが旧ソ連時代のKGBなどの権力機構のエリート官僚達であるからだ。

 彼らの「強いロシア」の戦略は、アメリカの一極支配への反発と、ロシアが多極化時代の一極を占めることを展望している。

 強いロシアの復活を許したという点で、アメリカのイラク戦争の戦略的失敗を指摘しなければならない。アメリカがイラクの泥沼で長期に莫大な軍事費の浪費を続けることは、多極世界の到来を早めることになるであろう。

 さて、変型プーチン体制とも言うべきロシアは日本の隣国でもある。ただアメリカに追随するだけで、自己の戦略をもたない日本は、再生しつつある強国ロシアとどう付き合っていくのかが、いま問われているのである。

 日経新聞によればプーチンは昨年秋にクレムリンの会議で、日本の領土問題に取り組むと発言したと報じられている。ロシアはかつての勢力圏をNATOに奪い取られており、しかも多民族国家であるロシアにとっては米中関係の進展も不安材料であり、全体とし戦略的劣勢に立たされている。

 ロシアは日本の資本と技術を必要としており、日本はシベリアの資源を必要としている。

 強力なプーチン体制が続くうちに北方領土の解決を行なうべき好機がきていることを指摘しておかなければならない。