No.80(2008年1月号から)

パキスタンを政治危機に巻き込んだ「反テロ戦争」


  パキスタンを政治危機に巻き込んだ「反テロ戦争」  アメリカの「反テロ戦争」の拠点であるパキスタンがテロと暴動で揺れている。

 ブッシュ米政権はアフガニスタンのタリバン政権を軍事力で打倒したが、タリバンはパキスタン北部に拠点を移し抵抗を続け、最近ではアフガニスタンでも盛り返している。国内のイスラム寺院へのパキスタン軍の攻撃は、イスラム原理主義勢力のテロを激増させた。

 アメリカは、パキスタンを政治的に安定させようとムシャラク大統領の陸軍参謀長の辞任で「文民大統領」とすること、さらには国民的に人気の高いブット元首相とムシャラクとの協力(同盟)で政治的安定を図り、パキスタンからタリバンとアルカイダを追い出そうと計画した。ところが12月27日にブット首相が集会の会場付近で銃撃と自爆テロで暗殺されたのである。これをきっかけにブット支持勢力(パキスタン人民党)の抗議デモが激化し、暴動化し、混乱が広がっている。

 アメリカの「テロとの闘い」の最前線、それがパキスタンだった。ムシャラク軍事政権はアメリカに協力することで核兵器とミサイルの保有を容認され、またアメリカから財政支援を獲得し、凍結されていたF-16戦闘機の購入を許された。パキスタンの民主化も棚上げされたのであった。

 結果を見るならばイスラム教原理主義勢力へのアメリカの「反テロ戦争」は逆にイスラム過激派の勢力拡大に手を貸しているようなものなのである。

 元々人気のないムシャラクと国民に人気のあるブットを同盟させるというアメリカの短絡的な計画に無理があり、ブットの暗殺を招いたといえる。したがってイスラム過激派にも、ムシャラク政権にもブット暗殺の動機がある。

 重要なことは、パキスタンが核とミサイルを保有するイスラム国であるということ、そしてそのパキスタンが政治的動乱と政権崩壊に向けて動揺している事実である。

 ムシャラク大統領は、総選挙の延期を発表したが、これは今選挙をやれば同情票がブットの人民党に集まるからである。

 パキスタンは核保有国でありながら核不拡散条約(NPT)未加盟であり、その国が動乱となりイスラム原理主義が台頭することはアメリカにとって悪夢であるが、ムシャラクとブット支持派勢力との対立は、イスラム原理主義の台頭を促す可能性が高いのである。

 アメリカの「反テロ戦争」は、明らかにパキスタンにおいても破綻しつつある。ブッシュはあたかもイスラム教原理主義にとっての救世主であるかのようである。

 アメリカが中東の石油支配を狙った侵略的・略奪的戦争を「反テロ戦争」と名付けパキスタンを拠点としてタリバンとアルカイダを攻撃したことは、核拡散防止という点でも、また反イスラム原理主義という点で完全に誤りであったことが露呈してきているのである。

 アメリカが「反テロ戦争」を続けることは世界にとっても悪夢なのである。