No.80(2008年1月号から)

投稿=米国覇権の終焉と日本の戦略

−米国の衰退と国際情勢−

投稿 文筆家 佐藤 鴻全


21cジャーナル編集部に佐藤 鴻全氏より投稿がありましたのでご紹介します。
佐藤氏のホームページ

 米国の衰退が、予想以上の速さで加速している。イラク戦争の失敗に続き、サブプライムローン問題の顕在化、ロシア等のドル石油決済体制からの離脱と湾岸アラブ諸国のドルペッグ制停止検討等、ドルの基軸通貨からの退位が予見され米国覇権の終焉の足音が聞こえ始めた。

 これを受けて、当然ながら日本も今後の国際情勢の潮流を読み取り、戦略を立てて臨まなければならない。

以下に今後の国際情勢についての私見を示す。

◆米国の衰退は、曲折を経て米国が普通の大国の1つに成るまで続くだろう。

 米国の主な優位性は軍事力と軍事技術である。衰退を食い止めるため、資源確保、ドル石油決済体制維持を図りイラン攻撃等の軍事行動に出る可能性がある。

◆米国による一極体制が崩れ、世界の多極化が進む。

 しかし、単なる多極化の下では極度に不安定な時代が続くだろう。

◆米国による覇権の代わりの体制が必要となる。

 やがて世界政府による中央集権体制か、多極+強い調整機能を持つ機関(恐らくは国連の発展形等)の体制、もしくは他の国(恐らく中国)による一極体制が現われる。

サブプライムローン問題は、ブッシュ政権の手当て等により現時点では小康状態を得ており、このまま収束するかもしれない。

だが本質的な問題は、誰が見ても明らかに持続不可能な資産投機と「金融工学」の組合せが好況を支える原動力として社会に容認されていたことであり、米国経済の病理を示している。

 冷戦の終結によりBRICS諸国、EU、東南アジア等が経済的に台頭してきた以上、米国が相対的に優位性を失って行くのはある意味自然なことである。

 米国自身もそのことは分かっており、負担を減らすために長期的にはアジア、EU等から通常兵力を引き安全保障を地域に任せる方向にある。

 その一方、短中期的には前述の理由で国益に適うと見た場合、国内世論の支持、一定の国際世論の黙認があれば、再び中東で自ら軍事行動を起こすかイスラエルのそれを支持する可能性は相当程度あるだろう。

◆日本の戦略◆

 上記を受けての日本の戦略について、筆者は下記のようであるべきと考える。

 (1)米国に侵略的軍事行動を起こさせず、緩やかな衰退、普通の大国化へソフトランディングさせる。そのため、同時に中東側の民主化も進める必要がある。

しかし、図らずも侵略的軍事行動が起きた場合に備え、出来るだけこれに巻き込まれない体制を確立する。

 (2)自主防衛を充実させると共に、是々非々の日米同盟は維持し米国の核の傘は引き続き利用する。核の傘を利用出来なくなった時に、画期的な非核化体制が進んでいない場合には核武装も視野に入れざるを得ない。

 (3)中国の一極支配体制は受け入れられない。中国を民主化に誘導して牙を抜く。

ロシア、インド、EU、東南アジア等とも結び、地域の集団安全保障を伴う多極+強い調整機能を持つ機関(国連の発展形等)の体制を確立する。

また、これに裏打ちされたドル基軸通貨に代わる新しい通貨体制を確立する。

 (4)上記これらの実現のためにも、国力と国際的発言力を充実させる。

具体的には、内政において消費税の福祉目的税化、地方分権、食料自給率100%化、基本的な貿易自由化、エネルギー供給の多角化等を進めて、ナショナル・ミニマムを伴う自立社会の確立を早急に進める。

 上記(1)に述べた、米国の侵略的軍事行動を抑制し、巻き込まれないようにするためには、自衛隊海外派遣について、現在の「槍の穂先論」に代わる、国連等による集団的安全保障が成り立つ場合か侵略的でない緊急的な集団的自衛権行使に限定して海外派遣する原則を確立する必要がある。

 いずれは、憲法を改正してこの原則を条文に組み込むべきであるが、時機を計らず原則無く改憲を進めれば米国への従属をより強める事になるだろう。

 (2)の非核化体制には、東アジアの非核化地帯設定、国連等による核一元管理、相互確証破壊、MD迎撃ミサイル網充実等の画期的な進展も含む。

 日本も相当の努力が必要であるが、いずれにせよ技術的、システム的、体制的、政治的に確固としたものにまで進んでいない場合には、次善の策として日本も核武装を視野に入れざるを得ない。

 そのための核技術とミサイル技術は、IAEAの許す範囲で磨いておくべきである。

 (3)の中国の民主化については、日本は中国へのODA廃止の方向を打ち出したが、敢えて新たにODA枠等を設定して環境問題と絡めて民主化の梃子として使う等々、戦略を持って臨むべきだ。

 なお、民主化によるナショナリズムの高まりが対外冒険主義を呼び、一時的には現在の一党独裁体制より危険になるリスクも孕むことへの対処が必要である。

 (4)の国力と国際的発言力を充実させるための、ナショナル・ミニマムを伴う自立社会の確立の必要性と具体策として何をすべきかは、冷戦終結後から答えの出ている問題である。

 しかし、日本の政治は20年近くパーシャルな問題に右往左往し、トータルな画についてまともに議論されることは無かった。政治家、マスコミ、識者の責任は重い。

 以上拙文を連ねたが、米国覇権の終焉が現実的になってきた以上、国際的大義を伴う長期的な国益の追求に向けて、日本が覚醒し明確な戦略を確立し遂行する事なくば、荒波に呑まれて安全と繁栄を失うだろう。

(2008年1月3日投稿)