No.78(2007年11月号から)

「槍の穂先論」と「国連錦の御旗論」 

−アフガンテロ対策に於ける国益と大義−

投稿 文筆家 佐藤 鴻全


21cジャーナル編集部に佐藤 鴻全氏より投稿がありましたのでご紹介します。
佐藤氏のホームページ

◆シーファー大使との会談◆

 我が国の「長期的な国益」を左右する最大の要素は、@米国のパワーが今後どうなるのか、Aそれに伴い米国がどのような行動を取るかであろう。筆者は、相対的に米国経済が衰退するのは避けられないと見る。

 繁栄期を経て生活水準と賃金水準が上がり、EUや勃興する中国、アジア諸国との競争力を徐々に失って行くと見るのは自然な見方だろう。

 米国が一時のITの様に革新的な技術を編み出し、世界経済をリードするという考え方も成り立つが新規分野で一人勝ちを長期的に維持し、かつ連発させる事は難しい。

 これに対応して米国が世界経済を急激に縮小させないように緩やかにドルの為替レートを下げて行けば米国経済は軟着陸して行く。

 しかしそれを続ければ、一旦世界最高に上がった生活水準を大きく切り下げ続ける事になり米国の有権者がすんなり納得する事は難しいだろう。

 また、大幅な財政赤字を国債に依存しているため、ドルの為替レートを切り下げ続けて行けば何れ引き受け手が居なくなり、ドル暴落の恐れもある。

 勢い、米国指導層が突出した軍事力を背景に石油等の資源利権を確保し、ドル石油決済体制の維持を図ろうとするのは自然な流れだ。

 イラク戦争に引き続き、イラン核施設を自ら攻撃するかイスラエルによる攻撃を支持し中東全体の石油を確保、一方北朝鮮と融和し中国の押さえの一つとし、ロシアと中国の離反を計りながら中央アジアの石油を押さえ、ドル石油決済体制の維持を実現する。

 例えばこんなシナリオを米国指導層のコアな部分が考えていたとしても不思議はないだろう。

 現在、米国ではイラク厭戦の気分が強いが、多くは米兵の犠牲者が数千人になり未だ増加し続けている事と、莫大な戦費が使われた上に国際世論により石油利権が制限された事によるものであり、例えばイラクの子供たちが空爆とテロの犠牲になった事による要素は大きくない。

 この事は、例えば地上軍を派遣しないイラン空爆ならその開戦理由次第では米国世論は賛成する可能性が強い事を示す。これは、共和党政権から民主党政権に移っても同じである。

 ヒラリー・クリントンが、イランの核開発を止めさせるためには、あらゆる手段を除外しないと発言している事にも表れている。

◆今後の国際情勢をどう見るか◆

今回、米国にNOを突きつけた形になった小沢氏と「小沢外交」の行方はどうなるのか。

 衰えつつあるとは言え、今後2、30年は依然唯一の超大国であり続けると思われる米国の意向に逆らう事は、小沢氏の政治上の父親である田中角栄元首相の独自外交とその後の失脚を連想せざるを得ない。直接的に言うなら米国に潰されないかということである。

 歴史に類例を探るなら、古代に当時の国際情勢を読み切り超大国である隋の煬帝に「日出る処の天子」云々の国書を送り対等の外交を目指した聖徳太子が数少ない成功例としてある。

 あるいは、小田原攻めに参陣を渋った末、最後には遅参し秀吉に許された伊達正宗の例等は、竜頭蛇尾に終わった例と言えようか。

日本が「小沢外交」を選択した場合、それは即ち日本の運命となる。

 小沢氏の今回の行動に対し、自民党政権を早期に解散総選挙に追い込むための駆け引きであり、外交を国内政局に利用しているとの批判がある。

 その面はあるが、政治は、勢力集結、駆け引きの組み合わせで、政策を実現させるものである以上、政策と理念の是非が先ず第一に論じられるべきであろう。

 小沢氏は米国が開戦時に於ける直接的な国連決議を得なかった事を問題視し、その後の国連の追認を以てしても日本の参加は認めないという立場であり、その主張は現実の国連の有りようを超えて在るべき姿を想定し日本の行動の判断基準とするものだ。

 一方で小沢氏は、01年12月の安保理決議1386に基づくISAF(国際治安支援部隊)をアフガニスタンへ派遣している点を指摘し、「国連に認められた活動に参加したい。これは米国にマイナスの話ではない」と述べた。

これ等を名付けるなら、いわば「国連原理主義」と言えようか。

◆日本の選択◆

 筆者は難しいと思うが、もちろん、米国が国民の生活水準を落としながら緩やかに覇権国家の地位を退位し、平和裏に多極化世界が実現するとの見方も成り立つ。

 「槍の穂先論」は、ガラス細工の様な部分はあるが、世界情勢が比較的安定していればコストパフォーマンスの点でメリットがあるだろう。一方、「国連錦の御旗論」は、その硬直さ故に国際社会への説明と他の手段での貢献を欠くと孤立する危険があるが、国際情勢が荒れた時、特に米国が単独または少数の有志同盟だけで断続的に軍事行動を起こす場合には、他に軍事同盟を持たない我が国が従属せずに是々非々を持って対応するための一つの論拠に成り得る。

 繰返すが、外交は国際的な大義を伴った長期的な国益の追求である。今回のアフガンテロ対策を機に、国際貢献の原則を打ち立てるべきである。

 何れを選ぶにせよ、今後の国際情勢への展望を欠いては国家の進路を誤る。

(2007年10月22日投稿)