No.78(2007年11月号から)

世界を襲う経済減速下のインフレ

市場の荒廃・原油高・金融危機・通貨不安


  今、世界と日本の情勢を揺さ振るキーポイントは『油』である。原油高が世界経済を揺さ振り、インド洋での自衛隊の「給油」、つまり新特措法が国内政局を混乱させている。

 10月18・19日に原油先物市場の価格が1バレル90ドルを超え、史上最高値を記録した。市場では1バレル100ドル時代の到来が現実味を持って語られている。

 アメリカの低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)問題で信用不安が広がり、投機資金が原油先物市場に流れ込んだことが原油高の主要な原因である。

 サブプライム問題では、アメリカの証券大手のメリルリンチが79億ドル(約9000億円)の損失を出し、銀行ではシティグループが65億ドル(約7500億円)の損失を出し、日本では野村證券が1450億円の損失を出している。

  しかも損失の表面化はこれからである。それはサブプライム債権が多様な証券化商品に組み込まれているため、銀行・証券会社・投資ファンドはリスクを把握できず、多額の不良債権が今なお隠れているため、各社とも疑心暗鬼になり、信用不安は長期化する状況となっているのである。

  総資産25億ドル規模の米オンライン銀行が、住宅融資の延滞が急増して破綻した。アメリカ市場の消費は減少し始め(自動車販売は9月に2.9%減となった)住宅部門の落ち込みはさけられない。全体としてアメリカ経済の先行きは暗いと見られている。

 アメリカだけではない、金融市場の混乱で、行き場を失った投機資金が商品市場に向かい、原油を高騰させ、各国でインフレを引き起こし、世界経済を減速させる可能性は極めて強くなっている。

 10月19日のG7の会議では、国際金融市場の混乱について「注視が必要」と指摘して、世界経済の減速に懸念を示した。

 原油高はまた世界の穀物価格を急騰させている。トウモロコシやさとうきびのバイオ燃料向けの需要が急増しているためである。原油と穀物価格の急騰は、あらゆる商品価格の上昇圧力となっており、世界的規模でインフレが強まりつつある。

 グローバル化が世界市場を荒廃させていることも見ておかなければならない。自由化・民営化・規制緩和を発展途上国に押しつけた結果、民族経済を破壊し、アフリカの部族対立、中南米諸国の反米化、中東の戦乱は、アメリカの経済戦略と軍事戦略の結果であり、世界中に反米の傾向を強めている。

 今後の世界経済の後退や原油高が発展途上国に打撃となり、動乱や内戦が一層世界市場を荒廃させることになるだろう。

 クルド族の独立をめぐるトルコ情勢や、アメリカが追加制裁を発表したイラン情勢、泥沼化しているイラク、アフガン、動乱が深刻化し始めたパキスタンなどの混乱も世界経済のマイナス要因である。

 また産油国の巨大なオイルマネーや中国などの政府系ファンドの巨額の投機資金がドル離れするなら通貨市場をかく乱することになる。

 さらに見逃せないのは、イラク戦争にアメリカが巨額の戦費を支出し、“双子の赤字”が巨大化していることである。アメリカは世界通貨としてのドルの発行益を独り占めしているとは言え、過剰なドルの“タレ流し”は、ドル安から暴落の危険を強め世界的にドル離れをうながし、世界通貨としての地位を崩壊させる危険が高まっている。

 アメリカの景気後退は、景気を回復させたクリントン時代への郷愁を人々に呼び起こし、ヒラリー・クリントンへの期待を集めることになるであろう。

 EUと日本はユーロ高・円高が貿易に打撃となり、原油高がインフレを強めることになる。

 世界経済が同時に景気後退局面を迎えつつあることは間違いないようだ。一説では中国とインドが景気の牽引役を果たすと見るむきもあるが、人口の多さは市場の大きさに比例しないのである。中国とインドの農村の多くは自給自足の経済であり、この両国の市場は、見かけの人口の巨大さに比べるとさほど大きくはないのである。

 つまり世界経済は、市場の荒廃、原油高、信用不安、通貨危機に直面しており、世界経済が後退局面に入りつつあるが、経済成長の機関車役の国が無いことは誰も否定できないことである。

 重要なことは、景気悪化とインフレ下で政策当局が打つ手が無い状況となっていることである。つまり利下げをすればインフレが加速し、利上げをすれば景気が悪くなるのである。しかも中国経済は深刻なバブル経済となっており、近々バブル崩壊の可能性があると見られている。

 日本経済は内需拡大策を取る上で財政上の困難を抱えている。したがって今後消費税大増税の圧力が高まるであろう。

 市場の荒廃、原油高、金融不安、通貨不安、インフレに直面している世界経済は、グローバル化による市場の拡大をテコとした繁栄・成長期から、景気後退下のインフレ、金融・通貨危機という恐慌・停滞期に入りつつあることは疑いないことである。

 世界を景気減速下のインフレが襲うことになる。株価の世界同時下落はさけられない。この世界経済の直面する危機が史上二度目の大恐慌へと進行するのか世界が注目している点である。市場の荒廃に対するPKO活動による外からの軍事介入が成果を挙げられなかったことを経済危機が立証することになるであろう。