No.75(2007年8月号から)

軍事バランスを崩壊させる“死の商人”

中東とアジアを武器市場とするアメリカ


 8月6日付の米紙ワシントンポストによれば、アメリカがイラク治安部隊(カイライ軍)の強化のために供与したAK47自動小銃など19万丁が、04年から05年にかけて行方不明になっているという。

 つまり19万丁の銃がイラクの反政府勢力に流れているのである。

 これが意図的なものかどうかは不明だが、このイラクの政情不安を背景にアメリカの湾岸諸国に対する200億ドル(約2兆4千億円)の武器供与計画が進んでいる。

 原油高騰でボロ儲けしている湾岸産油国にアメリカが大規模な武器輸出で“ドルの還流”をもくろんでいるのである。

 ブッシュ政権は、議会にイラク情勢報告を提出する期限が一ヵ月後に迫る中で、7月末から4日間中東を訪問したライス国務長官が明らかにしたサウジアラビア等の「アラブ穏健派」諸国への武器輸出計画は、ブッシュ政権の支持基盤が軍需産業であることを人々に思い起こさせることになった。

 こうしたアメリカの動きは、アジアにおいても見ることができる。

 地域覇権主義の野心を丸出しにする中国が空母保有に向けた動きを強めるなど軍事力増強を進めていることに対して、今年5月に中国を訪問したキーティング米太平洋軍司令官が「もし中国が(空母計画)を進める方向を選択するならば、彼らが要求する程度にもよるが、われわれが可能な程度に手助けしよう」と述べたことは、アジア各国に衝撃を与えた。

 他方でアメリカのチェイニー副大統領は中国の軍事力について「近年・急速に近代化が進み、能力が向上している」と懸念を示して見せた。一方で中国軍の外洋進出能力の増強を容認し、他方でその脅威を強調するアメリカの狙いは、台湾や日本や東南アジア諸国にアメリカ製の武器を輸出することである。在日米軍の再編(トランスフォーメーション)への日本の3兆円もの負担も武器輸出と同様アメリカを経済的に潤すことになるのである。

 ブッシュ政権が、日本を敵視する中国や北朝鮮に寛容なのは、日本を引き続きアメリカの従属国としておく戦略的狙いがあるからである。アメリカにとって日本をアジアで孤立させておくことは、日本に安全保障面で対米依存させ続ける上で必要なことである。同様に日本の自立と軍事的強大化を恐れる中国にとっても、日本の対米属国化についてはアメリカと利害を等しくしているのである。

 中国の軍事的膨張によって日本や韓国や台湾は安全保障面でいやおうなくアメリカに依存せざるを得ない局面に追い込まれ、アメリカ製の武器購入を迫られることになる。

 ブッシュ政権はこうして中東地域とアジアでアメリカ製兵器を大量に売りさばこうとしている。それはイラク後の武器市場を考慮したものである。石油の膨大な収入源を持つ湾岸諸国と経済発展著しいアジア諸国は、アメリカにとって巨大な“支払能力を持つ武器市場”なのである。

 アメリカという国は、巨大な産軍複合体を経済基盤としているがゆえに、定期的な消費行動としての戦争が不可欠であり、常に軍事バランスを口実とした武器輸出を国是としている国である。

 フセインのイラクもかつては親米国家であったが、米軍の犠牲(いけにえ)とされた。このような危険な国に追随することは戦略的誤りといわざるを得ないのである。