No.75(2007年8月号から)

失速過程に入ったアメリカ経済

世界的金融危機に進展するかが焦点


 注目されていたアメリカの住宅金融バブルの崩壊が表面化してきた。アメリカでは数年間の低金利の時代にローン返済能力の低い人々に対する変動金利の住宅ローン(サブプライム・ローン)の貸付が拡大したが、最近の金利上昇のため今年に入って返済不能になる人が急増している。

 アメリカでは住宅ローンの債権が債券化され、公社債市場で流通している。いわゆる“高リスク・高利回り”の債券である。

 米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は7月19日「サブプライム・ローン」の債権を組み込んだ金融商品の損失額が最大で1000億ドル(約12兆円)規模に膨らむとの見通しを明らかにした。

 住宅債券を保有する銀行や証券は打撃を受けることは確実で、すでにドイツ産業銀行(JKB)はサブプライム債権の崩壊で170億ユーロの損失を出している。同債権は中国の国営企業や日本の証券会社などでも購入しているため、国際的波及が心配されている。

 サブプライム債権の崩壊でニューヨーク株式市場は急落し、金融機関は貸し渋り傾向が強まり、投資家はリスク回避の傾向を強めている。

 近年のアメリカの景気は、住宅価格の上昇傾向を受けて、自宅を担保に借金をした金で消費するという形で個人消費が延びていた。住宅バブルの崩壊は、アメリカの個人消費を減退させることになり、アメリカ市場への輸出で稼いでいる中国や日本への悪影響を及ぼすこともありうる事態である。

 アメリカ景気の悪化は、投資資金の収縮を招き、世界経済の先行きに暗雲を漂わせている。

 イラク戦争という形での軍需産業にとっての消費拡大があるにせよ、アメリカ社会は少ない公共事業のため高速道路橋崩壊や石油関連企業の設備投資不足から精油所の停止が相次ぎ、ガソリンの供給不足から値上がりが続き、ドル安による輸入品の値上がりもあり、不況の上にインフレが重なっている。

 しかしアメリカ経済は市場規模が大きく、しかも日本や中国から低金利の資金が大量に流れ込んでいるので大方は楽観的に見ているようである。しかし今後ドル安が続けば、その資金の流れも急転する可能性があることも見ておくべきである。

 とにかく今回の債券市場の収縮は、アメリカ国内では情報操作されていて深刻さが隠蔽されているらしい。

 世界経済の成長力は中国やインドの発展で衰えていないとはいえ、中国やインドの経済がアメリカ市場に大きく依存しているのである。

 今後アメリカの景気がより失速し、その影響が中国や日本や欧州に波及するようだと、1930年代ような世界大恐慌につながる可能性も見ておくべきである。

 とりわけ注目されるのはオリンピックと万博を前にして“バブル経済絶頂期”中国のバブル崩壊とアメリカの金融危機が相互に悪影響を与えることである。事態は楽観を許さない性質を持っている。世界的な規模の経済危機の危険を指摘しなければならない。

 さらに付け加えると、アメリカ経済の不況の長期化は、大統領選にも重大な影響を与える。経済立て直しに導いたクリントン時代への郷愁がヒラリー・クリントンの登場を促す力として作用する可能性が強いのである。