No.74(2007年7月号から)

国家主義者プーチンの多極化戦略 !!

「新しい世界経済秩序」の創設めざす


 旧ソ連崩壊後の1990年、当時アメリカの大統領だったブッシュ(父親)は、アメリカを覇権国家として位置付ける「新世界秩序」という概念を用いた。それは冷戦の崩壊によってアメリカの一極世界支配の時代がきたことを示していた。

 それから17年後の2007年6月10日、ロシアのプーチン大統領はサンクトペテルブルグで開かれた国際経済フォーラムで講演し、急速に経済成長を遂げつつある諸国により大きな影響力を与える「新しい世界経済秩序」の創設を訴えた。

 プーチン大統領は、同フォーラムで「50年前なら全世界のGDPの60%はG7が占めていた。しかし今は違う、世界のGDPの60%はそれ以外のところで生産されている」と述べ、IMFや世界銀行は世界経済のなかで適切さを失ったと指摘し、世界は準備通貨としての米ドルへの依存を減らす必要があるとし、ロシアの通貨ルーブルをその1つの代替とするよう訴えた。プーチンの「新しい世界経済秩序」は複数の通貨による多極世界を前提にしており、アメリカのドル支配に挑戦している。

 プーチンは今年2月の世界安全保障政策会議で、アメリカの「一極支配」を真っ向から批判して「アメリカはあらゆる方法で国境を踏み出し、ますます大胆に国際法を軽蔑している」と語り、またアメリカのポーランドとチェコへのMD計画に対して「問題の国(イランのこと)は欧州に届くミサイルを持っていない」と語り、つづいてNATOの東方拡大について、この拡大が「ロシアに向けられているのだ」と不快感をあらわにした。

 このプーチンの大胆で強気の発言の背景には、アメリカがイラクの泥沼に陥っていること、石油と天然ガス価格の高騰で莫大な外貨収入で潤ったロシアの経済力回復への自信という政治・経済面での裏付けがあってのことである。

 プーチン大統領は旧ソ連時代のKGB出身の国家主義者である。

 彼は大統領へ権力を集中し、反体制派を弾圧し、エネルギー産業を次々に国策会社を通じて国家統制下に置き、外国資本の石油・天然ガス開発の主導権を強権的に「接収」した。

 つまりロシアはエネルギーを武器とする戦略を当面はとらざるを得ない。しかしこの戦略の弱点は、石油・天然ガス開発技術が劣ることであり、したがってロシアはアメリカとの関係を今以上悪化させられない。エネルギー開発技術でアメリカに頼る以上第2の冷戦とはならないのである。

 アメリカはEUとロシアの間にクサビを打ち込むため、旧東欧と旧ソ連から分離した諸国に米軍基地建設を進めており、新しい欧州と古い欧州の矛盾を利用しようとしている。

 つまり東欧と旧ソ連から分離した諸国をめぐって米・欧・ロの外交戦が展開されているのが現段階である。

 軍事力によるアメリカの一極支配に反対する点ではEUとロシアは利害を等しくし、エネルギーを武器とするロシアの国家主義的強権政治への警戒ではアメリカとEUは共通した認識を持っている。

 7月1日と2日、プーチン大統領は訪米し、ブッシュ大統領と首脳会談をおこない「親密」さを演出した。イラクと開発技術という双方の弱点ゆえの演出である。

 アメリカが北朝鮮に対し対話路線に転換したのは、イラクの泥沼化があるからだけでなく、金正日政権を温存することが、シベリア鉄道を使ったヨーロッパと東アジアを結ぶというEUとプーチンの戦略を阻止できるからである。

 北朝鮮は市場経済化を進めれば政権崩壊はさけられないので、金正日政権が続くかぎり、北朝鮮のグローバル化は難しいのである。

 ロシアと中国とインドなどで構成されている上海協力機構は、アメリカの一極支配に反対して多極世界をめざす非米同盟であるが、アメリカはこの同盟からインドを切り崩そうとしている。

 こうして見てくると世界は多極化を前提にした外交戦に突入している。しかもその特徴は、一極支配を維持できなくなったアメリカが世界で孤立していることである。

 それは世界の主要な産油国(イラン、ロシア、ベネズエラ)が反米、あるいは非米国家であることを見ても分かる。アメリカが世界第2位の石油埋蔵量を持つイラクから撤兵できない理由である。

 アメリカの不安はイラクの内戦化(宗派対立)とクルド族の独立が新たな大動乱へと米軍を巻き込むことである。アメリカはベトナム以上の泥沼にあって勝利も撤退も選択できない状況にある。ロシアはこうした状況を戦略的にチャンスと見ているのである。

 こうした国際情勢の下では、日米同盟一辺倒の日本外交は明らかに多極時代にふさわしくない。日本は多極外交に転換して対米自立の必要条件を整えるべきであることを訴えたい!