No.73(2007年6月号から)

袋小路に迷い込んだアメリカの中東戦略

泥沼のイラク


 イラク駐留米軍の増派による掃討作戦が4ヶ月目に入り、米兵の戦死者が増加し、掃討作戦の失敗が明らかになってきた。イラク駐留米軍のぺトレイアス司令官は、5月25日のインタビューでイラン政府がイラクのイスラム教シーア派強硬指導者サドル師傘下の秘密部隊を支援していることを示す「大量の証拠を発見した」と述べた。

 それによるとイランの資金援助の総額は数億ドル(数百億円)規模に及ぶという。

 外国からの武器等の支援ルートを持つゲリラを掃討することが難しいのは、米軍がベトナムで経験したことである。

 ゲーツ米国防長官は6月8日の記者会見で、9月末で任期切れとなる統合参謀本部のペース議長について「再任しない」と発表した。

 これはイラク情勢の混迷の責任から事実上の更迭を意味している。

 深刻なのは、たとえ米軍の掃討作戦が失敗しても、米軍はイラクから撤退できないということである。すでに米軍がイラクのフセイン政権を打倒してしまった以上、米軍が撤兵すればイラクは内戦の“るつぼ”となり、イスラム教の宗派対立が激化し、またクルド教の独立をめぐってトルコ軍の侵攻を招いたり、イラクがアルカイダの拠点化し、中東を収拾がつかない事態に巻き込みかねないことである。

 またイラン・ロシア・ベネズエラと世界の主な産油国が反米化しつつあるなかで、世界第2位の石油埋蔵量を誇るイラクをアメリカは簡単に手離すわけにはいかない。

 すでに米兵のイラクでの戦死者は3500人を超え、しかも武装勢力の仕掛け爆弾や大型手榴弾で米兵の死者数は急増している。

 6月13日のウォール・ストリート・ジャーナルとNBCテレビの合同世論調査結果によると、ブッシュ大統領の支持率は29%に低下している。これはイラク戦争失敗の反映である。

 アメリカの「反テロ戦争」(01年9月から06年6月まで)の軍事費は4320億ドル(約52兆円)に達し、当然にも一部の軍需産業と石油産業をのぞきアメリカ経済の悪化の原因となっている。

 しかもアメリカがイラクで泥沼にはまっている間に、ロシアと中国が新型の戦略兵器の開発と配備を進めていることは、アメリカにとって気がかりな事である。

 ブッシュ政権の北朝鮮への柔軟な対応は、彼らの弱さの現われと言える。かつてのアメリカなら中南米におけるチャべスの大胆な社会主義化を容認するはずもなかった、しかし今やアメリカはイラクに手いっぱいである。

 もはやイラクからの撤退しかないのに撤退できず、かといって増派しても勝利はあり得ず、ただ消耗を続けるのは、アメリカとしては回避したいところである。しかし現状での撤退は中東を戦乱に巻き込み、イスラエルの安全を危機に陥らせることになりかねず、アメリカはイラクで“袋小路”に迷い込んだ状況にある。

 このままではアメリカはフセイン政権を打倒したことがいかに高くつくかを思い知ることになるであろう、いつの時代も侵略者のたどる道は“石を持ちあげて自分の足の上に落す”ことに似ている。

 ベトナム戦争がドルショックを招いたように、イラク戦争でドル紙幣をタレ流していることが新たな経済危機を招くことはさけられないであろう。