No.73(2007年6月号から)

対立の影強まる中、温暖化問題で成果を演出

多極化時代のサミット


 ドイツで開かれた今年のサミットの特徴は多極化時代を反映して、主要国の対立関係が影を落としたこと、とりわけアメリカの孤立が際立った特徴であった。

 EU(欧州)とアメリカは、イラク占領と地球温暖化対策で対立し、アメリカとロシアは、アメリカがチェコとポーランドに配備を計画しているミサイル防衛(MD)で対立し、ロシアとEUはセルビアのコソボの独立をめぐって対立している。もっともEUとロシアの対立は背景にアメリカの影がある。アメリカは旧ソ連諸国を「新しい欧州」と呼び、「旧宗主国」と呼ぶべきロシアから引き離すことを策動してきた。

 「新しい欧州」へのアメリカのミサイル防衛の配備計画は、EUの東欧への浸透を阻止し、EUとロシアの間にくさびを打ち込む狙いがある。

 EU諸国の世論は、アメリカの東欧へのミサイル防衛の配備計画に対し、欧州に軍拡と新たな対立を持ち込むものとして警戒している。

 アメリカはドル支配のライバルとしてのユーロを生み出したEUとロシアとの結合を阻止することを、この地域における戦略的重点としている。アメリカはイラク占領を成功させようとして、イランへの軍事的経済的圧力を強め、旧東欧諸国へも軍事・経済面で浸透しつつある。

 ロシアのEU向けパイプラインの一時停止も、ウクライナの挑発の背景にアメリカの意図を見なければならない。

 今や一極となった超大国アメリカがイラクの泥沼に陥って抜き差しならぬ局面にある中で、アメリカは“ユーラシア非米同盟”を阻止しようとして「合従連衡」の外交戦が展開されているのである。 アメリカは経済大国日本の戦略的取り込みを進め、ロシアは中国、インド、イランと非米同盟を強化し、EUは東欧からロシアへと経済的に浸透している。EUのロシアへの石油・天然ガスの依存は半面ではユーロ圏へのロシアの取り込みを意味している。

 アメリカは中東の軍事支配と日米同盟の強化、さらにはインドと中国を経済的に取り込むことで上海協力機構の切り崩し、欧州の分断と東欧への浸透を強めている。

 こうした主要国の戦略と戦略のぶつかり合いは、今のところ外交的駆け引きの段階であり、ドイツサミット参加国首脳は、サミットを外交上の「成果」としなければならなかった。こうして地球温暖化問題での合意が形だけ整えられた。

 アメリカのブッシュ政権は石油産業を支持基盤にしており、もともと温暖化対策では消極的であった。しかし議会の主導権を民主党に奪われ、イラク戦争で孤立している関係から、今回数値目標をあいまいにすることで骨を抜き、形の上での協調ポーズを取ったのは、全世界での孤立を表面化させたくなかったからにほかならない。

 中国やインド、ブラジルなど新興国も経済成長重視であり、本気で温暖化問題に取り組む気はないのである。したがってサミットの世界の温室効果ガスを「2050年までに少なくとも半減させる」との「虎の子の合意」(朝日新聞)は決裂を回避ししたにすぎないものである。

 ブッシュ政権の“レイムダック化”は深刻である。東欧へのミサイル防衛の予算では(2008会計年度での)アメリカ議会で認められる見通しはないのである。アメリカ議会は、ミサイル防衛の東欧配備について「必要な国際的合意がない」として時期尚早としている。

 とりわけ同計画がNATO(北大西洋条約機構)の協力が無視されていることを批判している。ブッシュ政権のミサイル防衛の東欧配備は、今のところ外交的“布石”としての意味しかない。

 EUやロシアや中国は、アメリカに“イラクの重荷”を担がせ、消耗させて、その隙に軍事的・経済的強国の地位を築こうとしている。ブレア後のイギリスは、アメリカの戦争路線とは距離を置くと見られており、アメリカの同盟国は日本ぐらいになっている。イラク戦争の泥沼化は、ドルの地位を不安定にしており、アメリカの覇権は衰退の段階に差し掛かっている。

 アメリカの一極支配の時代の産物であったサミットは、今や各国首脳の政治ショーの意味しかなく、今回成果を演出するために「温暖化対策」で形だけの合意をしたが、グローバル化と「温暖化対策」は両立せず、具体化と実践は限りなく困難である。

 アメリカのグローバル化が世界の多極化をうながし、世界は主要国が連立する多極世界に近づき、「合従連衡」の時代を迎えた。つまりは戦略を持たない国は“亡国”を招きかねない時代となっている。

 日本は対米自立の好機を迎えていることを知らなければならない。