No.71(2007年4月号から)

サウジ国王の“アメリカ批判”の意味するもの!

アラブの“自助努力”で出口戦略さぐる米政権


  イラクに米軍を増派し、ペルシャ湾に空母機動部隊を集結するというアメリカの表面上の強硬策の影で「アラブの自助努力」という形で、サウジアラビア(以下サウジ)の和平に向けた役割分担が表面化してきた。

  今年2月にサウジはパレスチナのファタハとハマスの両組織の代表をメッカに招き、統一内閣づくりの合意を実現している。さらにサウジは3月初めにイランのアハマディネジャド大統領を招待し、イラクを中心としたイスラム教スンニ派とシーア派の宗派間抗争拡大阻止で合意した。

  また3月末にサウジのリヤドで開かれたアラブ首脳会議では、アブドラ国王が「イラクは不法な外国軍の占領下にある」と発言し、アラブ諸国が内部の立場の違いを克服しないなら、アメリカに中東地域が牛耳られ続けることになる。と発言し「中東包括和平構想」を確認した「リヤド宣言」を採択した。

  こうしたサウジを中心としたアラブの“自助努力”による和平の筋道は、米政権内の強硬派であったボルトン前国連大使やラムズフェルド前国防長官の辞任で可能となったもので、ライス国務長官らの「現実外交」の具体化と見られる。ライスの現実外交はアジアでは北朝鮮に対する金融制裁の実質的解除にも示されている。

  問題はイランのウラン濃縮をめぐる核開発問題である。このことがユダヤ人国家(イスラエル)の安全保障にかかわることであり、ペルシャ湾へのアメリカ空母機動部隊の集結は、イランへの軍事圧力と見て間違いない。

  3月24日には国連安保理は、イランにウラン濃縮活動の停止を求める追加制裁決議を全会一致で採択している。イランが核開発を放棄しないかぎりアメリカの軍事力による制裁の可能性が残っている。

  北朝鮮に核保有を容認したと言っても、イランの場合はイスラエルの安全に関わる以上「二重基準」がまかり通るのがアメリカ外交なのである。

  イラクへの米軍4万人の増派は、イスラム教シーア派の過激派(サドル派)を叩き、サウジを中心としたアラブの“自助努力”で米軍のイラク撤退を可能とする“出口戦略”を狙っているのである。

  この“出口戦略”には弱点がある。それは(1)パレスチナのハマスが包括的和解を受け入れるか(2)イラクのサドル派民兵を武装解除できるか(3)イランの核開発を阻止できるか、である。つまりはイスラム教シーア派の出方がカギとなる。

  そこでサウジのアブドラ国王のイラクに対する「不法な占領だ」とのアメリカ批判の発言が重要な意味を持ってくる。アラブが宗派争いをしているとアメリカに中東地域が牛耳られ続けることになる、との「アラブの大義」を掲げれば、シーア派も“アラブの和平への自助努力”に協力するという筋書が見えてくる。

  アメリカのペリノ大統領報道官の「国王発言に同意しない」との不快感の表明は芝居なのである。 アメリカはイラクに侵略し、紛争の当事者となったことで、中東和平の新たな調停者を必要としたので、今回のサウジの出番となったのである。

  昨年12月イラク研究グループ(ISG)がアメリカのイラク政策の転換を勧告して以後、逆にブッシュ政権が米軍の増派を決定したのは“出口戦略”を具体化するためのものであったと見てよさそうだ。ただしペルシャ湾には4月末までには三隻目の空母ニミッツがペルシャ湾に到着する。したがってイランの核施設への空爆の可能性はまだ残されている。

  中東包括和平案を成功させるための難関とされるパレスチナ難民の帰還問題を巡って、難民が帰還を断念すれば、レバノン・シリアなど避難先に定住することを条件に金銭面で補償(数百億ドル)する構想が浮上している。アメリカ・サウジ・湾岸諸国が資金を拠出するというものである。

  アメリカ議会上院は3月29日、2008年3月末までにイラクから米軍を撤退させることを盛り込んだ2007会計年度追加予算案を可決した。

  これでアメリカの上下両院がそろって撤退法案を承認したことになる。ブッシュ大統領はすでにこの法案に拒否権を発動することを表明している。

  アメリカ政府がサウジを通じて進めている“アラブの自助努力”による中東包括和平が成功するかどうかのカギはイランが握っている。つまりイランを力で屈服させるための空母機動部隊のペルシャ湾への集中配備なのである。

  ブッシュ政権のイラクからの“出口戦略”の成否が注目される。