No.68(2007年1月号から)

米イラク新戦略・強まるイラン空爆の可能性

ベトナム化を意味する米軍増派


 1月10日夜ブッシュ大統領は全米向けテレビ演説で「イラク新戦略」を発表した。ブッシュ米大統領は宗派間抗争が内戦状態まで悪化したイラクの現状は「許容できない」として首都バグダッドに米陸軍5個旅団約1万7千人を投入し、さらにはシーア派の過激派民兵の拠点であるサドルシティーにも米軍を投入する計画といわれている。

 ブッシュは演説の中で「シーア派過激派の一部はイランに支援されている」イラクでの失敗は「イランの核兵器開発を勇気付けることになる」と語り、ペルシャ湾への空母打撃群の追加展開を命じたことを明らかにした。

 先に超党派のイラク研究グループ(ISG)が出した報告書は、2008年第1-4半期までの撤兵のため、イラン・シリア両国との外交的アプローチを取ることを促していたのであるが、ブッシュ米大統領はこの報告を無視「スティ・ザ・コース」(既定路線でいく)のが答えだった。イラク研究グループの「出口戦略」は誰の意図でまとめられたのか? という疑問が出てくる。ブッシュ大統領の父親の意図ならブッシュ米大統領は「親の心子知らず」というべきだ。

 米軍のイラク増派の背景にあるのは、第1にイラクの油田(埋蔵量世界2位)権益の存在があり、第2にイスラム教スンニ派のフセイン政権を打倒し、イラク・バース党の人たちを公職追放にした事で、カイライ政権はシーア派勢力が主導権を持つことになったこと、つまり、イラクにおけるイランの影響力を拡大したことで、米軍が撤退した後のシーア派勢力の伸張でサウジやイスラエルにとって政権存続の脅威となっていることがある。

 第3に、当初38カ国が参加していた「有志連合」は撤退が相次ぎ、アメリカが孤立しつつあることから、ブッシュはイラクやサウジの油田を確保した形での撤兵の条件を作ろうと考えていることがある。

 ベトナム戦争の場合はべトコンを支援する北ベトナムへの爆撃(いわゆる北爆)が兵力増強とあわせて行なわれた。つまりイラクへの今回の増派は過去4回の増派とは性格を異にしており、ペルシャ湾地域への空母打撃群(3個機動部隊)の展開から、アメリカはイランへの空爆を前提にしている可能性は高いのである。

 石油権益確保とイスラエルの安全にかかわる場合、アメリカは本気になる。イランと北朝鮮との対応の違いはこの点にある。

 ブッシュの新戦略のうち、イラクでの雇用創出のための5億〜10億ドルの復興支援、今後5年間での米陸軍と海兵隊の9万2千人の増員が示しているのはイラク戦争の長期化である。アメリカはイラク戦争で「ベトナム」の“二の舞”を演じている。

 深刻なのは米軍がイラクで悪あがきをやればやるほど事態が悪化することである。イランの核施設への空爆は、イランのホルムズ海峡の封鎖を招く可能性がある。それを阻止しようとすれば全面戦争の危険がある。

 中東が戦略拠点だけにアメリカは簡単にイラクから撤兵できず、さりとて“泥沼”が長期化すれば、旧ソ連にとってのアフガン侵略と同じく消耗することになる。

 ベトナム戦争で「北爆」や「カンボジア侵略」が成功しなかったように、予想されるアメリカのイラン空爆も、既に決定されれたイラク増派も失敗は避けられない。

 重要なことは中東における戦乱の拡大が世界経済にどのような影響を及ぼすのか?ということである。アメリカはホルムズ海峡のタンカーの航行を確保できるのであろうか?

 ロシアはイランに新型対空ミサイルを売却している。イランと関係の深いロシアや中国の動向も注目される。アメリカ軍はアフリカ派遣軍を編成して、中国の資源外交とイスラム過激派のアフリカ浸透に対抗しようとする動きも表面化している。世界はグローバル化の結果資源争奪の局面に突入しているのである。

 日本は対米自立しなければ、アメリカの侵略戦争にどこまでも協力させられ、戦費負担を求められ、あげくドル暴落で全てを失うことになりかねないのである。

 イラクにおける“出口戦略”なきブッシュの暴走は、中東地域を大規模な戦乱に巻き込む可能性が強く、世界経済に与える打撃も深刻なものとなるであろう。

 ブッシュの「イラク新戦略」は二年後のアメリカ大統領選がらみであることも見ておく必要がある。