No.66(2006年11月号から)

中間選挙敗北で終焉迎えたネオコン戦略

国防長官更迭で延命探るブッシュ政権


 11月7日に投票されたアメリカの中間選挙は、イラク戦争を最大の争点とし、経済政策では民主党が最低賃金の引き上げ、共和党が大型減税の恒久化を掲げて争われた。

投票結果は、共和党の現職議員の落選が相次ぎ、下院は共和党が過半数を大きく下回り、下院でも過半数を割って、議会の主導権は民主党の手に渡ることになり、米ブッシュ政権に対する厳しい審判となった。

 イラク戦争での米兵の死者が10月は103人に達し、開戦以来の戦死米兵は2814人となった。元政府高官をはじめアメリカの有識者の間では「泥沼化したイラク戦争は失敗した」との評価が広がり、米国内の世論調査でもイラク戦争に「確信が持てない」とする国民が61%に達していた。

 米軍内部でイラクからの即時撤退を訴える署名運動が始まり、中間選挙投票の三日前には、米軍専門誌4誌が共同社説で「国防長官の辞任」を求めた。

 アメリカ経済は「好景気」が強調されたが、労働者の賃金水準は伸びず、医療保険の未加入が増え、貧困層も増加し続けている。したがって中間選挙に向けてアメリカの経済指標は政権によって操作されているとの見方まで出ていたのである。したがって共和党候補者がブッシュ大統領の応援を敬遠するなど、その不人気があらわとなったのである。

 投票日直前に設定されたフセイン元イラク大統領に対する死刑判決も、投票に影響を与えることはできず、逆にブッシュ政権の支持基盤であるキリスト教保守派(米国福音協会)会長のセックス・スキャンダルが共和党に打撃となった。

 ブッシュ米大統領は、中間選挙の敗北を受けて11月8日「選挙結果に失望しており、責任の大半は私にある」と敗北の責任を認めラムズフェルド国防長官の更迭を発表した。

 これによって先制攻撃戦略で中東を軍事的に制圧し、アメリカの一極世界支配を目指すネオコンの覇権主義戦略は終焉を迎えることとなった。政権内に残るネオコンのチェイニー副大統領も失脚の可能性がある。

 新国防長官に指名されたロバート・ゲイツ元中央情報局(CIA)長官は、ブッシュ大統領の父親(パパブッシュ)に近い人物であり、ベーカーらが進める「イラク研究グループ」(ISG)に参加しており、今後ブッシュ政権はイラクの権益を守りながら泥沼のイラクからの“出口戦略”を模索することになる。

 アメリカのメディアによれば、イラク駐留米軍の段階的撤退やイラクの武装勢力を支援しているイランやシリアとの対話などが「イラク研究グループ」から提言されていると言われている。

 変わるのは安保政策だけではない、ブッシュは8月の会見で連邦レベルの最低賃金引き上げについて「共和・民主両党が一致点を見出せる領域がある。」と語っている。経済政策運営でも民主党との妥協を探る姿勢を見せている。明らかにブッシュ政権は残り2年の任期を乗り切るための“生き残り戦略”に転換したと見て良い。ここには“パパブッシュ”の意向が働いている。

 重要なことは、ブッシュ政権の戦略転換が簡単ではないということである。民主党が提案しているイスラム教スンニ派、シーア派、グルド族という3分割案は、帰って混乱を大きくする可能性がある。スンニ派を支援しているシリア、シーア派を支援しているイランと話し合うことは、イランの核開発と絡んで難しくなる。つまりアメリカは簡単には“息継ぎの平和”に転換できないのであるが、さりとて消耗を続けることもできない。

 アジア政策の変更もありうる。民主党が北朝鮮との二国間対話を主張するのは確実で、ラムズフェルドのトランスフォーメーション(米軍再編)も変わる可能性がある。

 アメリカが北朝鮮との対話路線に乗り出した時、安倍首相は拉致問題と安保問題で参院選を闘えなくなる可能性が出てきた。このことは安倍首相にとって打撃となりかねない。

 日米同盟がアメリカの政策変更でころころ変わることを心配しなければならないのは、アメリカの世界における相対的力の減退の中で国際情勢が多極化しているからである。

 日本は対米追随一辺倒の“属国外交”を止めて、対米自立の必要条件を整える戦略的多極外交を展開すべき時が来ているのである。