No.63(2006年8月号から)

昭和天皇“不快感メモ”の衝撃 !!

表面化した日本国内の政治対立


 7月20日付の新聞各紙は、昭和天皇が靖国神社のA級戦犯合祀に不快感を示していたメモについて大々的に報じた。それによると昭和天皇が、昭和63年の靖国神社のA級戦犯合祀について「あれ以来参拝していない、それが私の心だ」と不快感を示していたという。当事の宮内庁長官・富田朝彦氏(故人)のメモが見つかり公表されたのである。

 同日、右翼と思われる人物が先の記事を大々的に報じた日経新聞社に“火炎ビン”を投げる事件も起きている。

 小泉首相が公然と靖国参拝を繰り返し、アジア諸国の反発を利用して日米同盟強化を進めたことにより、日本は外交的に東アジアで孤立することになった。

 日本には靖国神社を利用し、かつての侵略戦争を美化し、君が代・日の丸と愛国心を教育の場で強制し、天皇イデオロギーを利用し、戦争法を準備し、戦前のように内務省を復活させ、強力な中央集権国家を再建しようと企む右派勢力がいる。

 “ポスト小泉”の安部晋三は、著書『美しい国』の中で「国際法上、戦犯に対する軍事裁判の判決は、平和条約の効力の発生と同時に効力を失う」と主張している。

 安部は「A級戦犯とは極東国際軍事裁判=東京裁判で“平和に対する罪”や“人道に対する罪”という戦争の終わった後につくられた概念によって裁かれた人達のことだ」とも言っている。

 つまり小泉とその後継者は、東京裁判を認めておらず、歴史認識において先の大戦が正義の戦争であるかのように認識している。

 今年の8月15日の敗戦記念日に小泉首相が靖国参拝をおこなうとみられている時、昭和天皇の“不快感メモ”が公表されたのは,日本の反動的右派勢力に反対する勢力の反撃であることは明らかである。

 日本の経済界は、東アジアでの商売がうまくやれる政治環境を望んでおり、反日運動を招く保守右派の靖国参拝の動きを苦々しく思ってきたのである。

 今回の“不快感メモ”の記事も日経新聞が一番大きく報道したこと、その後A級戦犯分祀論が台頭してきていることを見てもわかるように、日本の支配層に深刻な政治対立が生じていることを見て取らねばならない。

 この対立は今のところ歴史認識と“靖国”をめぐる対立であるが、小泉や安部が「日米同盟の強化」で戦争勢力であるアメリカに追随すれば、日本があたかも自立できるかのように公言していること、しかし実際には日本のアメリカへの属国化が強まることから、いずれ対米追随の戦争派と対米自立による平和派へと発展することは必然と思われる。つまり歴史認識や靖国をめぐる対立は、日本の将来の国家像をめぐる対立へと発展することは避けられないのである。

 天皇家が戦後一貫して平和を願い、戦争勢力に利用されないように、機会ある事に「先の大戦を深く反省し」と述べられ、平和を訴えてこられたことを多くの国民は知っている。したがって昭和天皇の“不快メモ”の公表は、日本の保守反動勢力にとって衝撃的な打撃であった。

 小泉は、20日の昭和天皇の“不快メモが”与える自らの靖国神社参拝の影響を聞かれて「ありません」と言葉少なに強調した。

 小泉が8月15日に靖国に参拝したことは、昭和天皇の御心を踏みにじることになる。小泉の口癖は「靖国参拝は心の問題」であった。誰の心を小泉は尊重するのか? という問題に彼は直面したがゆえに、今度は「公約」を持ち出して参拝したのである。

 重要なことは、小泉首相は今まで「靖国に行くなと外国に言われたからやめるのはおかしい」と主張してきた。では天皇の“不快感”を承知の上で、それでも参拝するのは、天皇イデオロギーを利用し、靖国参拝を利用した対米追随の戦争路線を進む保守右派勢力が自己矛盾に悩むことになった。

 民主党・小沢代表が言う「靖国神社を本来のものにすべきだ」との主張には道理がある。戦没者でもない人(A級戦犯)を靖国に合祀することで、かつての戦争を正当化する狙いを暴露すべきである。

 これまで中国や韓国の意図的な反日運動が、日本の良識ある人々に靖国問題への発言を抑制する役割を果たしてきた。つまり外国の反日運動が、日本国内の政治対立の表面化を抑制してきたのである。

 小泉・安部が靖国参拝を利用して日米同盟の強化を進めたため、靖国問題が日本国内の政治問題であることがはっきりしてきたのは、ミサイル防衛(MD)や在日米軍再編で日本の巨額の国家予算がアメリカに分捕られることが表面化したからである。

 つまり対米自立による“平和の道”(経済活動重視)か、対米追随による“戦争の道”(アメリカへの高負担)かである。

 当面の政治の焦点は憲法9条ではない。集団的自衛権の憲法解釈を変えるかどうかである。

 つまり靖国参拝をめぐる日本の支配層の対立の本質は、平和主義を堅持するか、アメリカの戦争路線に追随するかであるが、この面では、アメリカが怖いので対立は表面化しにくいのである。

 つまりA級戦犯を合祀する靖国神社に参拝することは戦争を肯定する思想が背後にあると言える。

 彼らの日米同盟の強化が、アメリカによる日本の国家予算の分捕りを伴う以上、日本の支配層の政治対立は激化するのは避けられない。

 日本の保守・右派勢力(靖国派)が、昭和天皇の“不快感メモ”の公表を「天皇の政治利用」と批判するのは、彼らの衝撃の大きさを反映しているのである。

 “君が代”の斉唱を強制して天皇イデオロギーを利用してきた彼らが「天皇の政治利用」を口にしなければならない点に、彼らの狼狽ぶりが示されている。

 靖国参拝で愛国主義者を装ってきた親米売国派の正体が明白になってきたのである。