No.57(2006年2月号から)

戦争継続か、それとも息継ぎの平和か?

転換点迎えた中東情勢


 中東情勢が重大な転換点を向かえている。ブッシュがイラクの大量破壊兵器のウソでイラクを占領したことが暴露され、それでもイラク戦争を正当化するブッシュに中東の人々は反米の意識を高めている。

 アメリカとイスラエルは「反テロ戦争」と称して、イラクとパレスチナを占領し、アメリカは石油を手に入れ、イスラエルは入植を進めた。彼らは侵略で人々の反抗を呼び起こし、自爆テロを口実に更に侵略を進めた。この手法がどのような結果を引き起こしたかが重要なのである。

 イラクは、イランと関係の深いシーア派と独立を目指すクルド族が「政権」(=カイライ)を握り,パレスチナでは腐敗したファタハに変わってイスラム原理主義のハマスが、自治評議会の過半数を占めた。

 ブッシュが「中東の民主化」政策を進めれば進めるほどイスラム過激派が勢力を拡大している。エジプトでも、昨年11月から12月にかけての選挙でイスラム同胞関係の議員が議席の約20%を占めている。シリアやレバノンでもイスラム原理主義の「ヒズボラ」が勢力を拡大している。

 アメリカとイスラエルは、イラクやパレスチナの人々を挑発して「自爆テロ」を口実に侵略を正当化してきたが、そのことがとんでもない巨大な敵を創り出し、果てしない消耗戦に直面しつつある。

 アメリカ政府はハマスが武装闘争路線を放棄しないまま政権についた場合は、対パレスチナ支援を見直す方針を示し、ハマスの武装解除を要求している。

 イスラエルのシャロン首相が病気で復帰が難しいといわれており、パレスチナ和平は双方とも和平推進が困難な状況になった。

 イランの核開発にもアメリカは打つ手がない状況で、安保理に問題を持ち込んでも、武力行使の合意は難しく、経済制裁も原油高騰の中では不可能だし、何よりもアメリカはイラクで手一杯の状況にある。

 イスラエルの核開発はいいが、アラブの核は認めないとするアメリカの二重基準がイランの挑戦を受けているのである。こうして見るとアメリカはイランの核では安保理で時間を稼ぎ、パレスチナではハマスの現実路線への転換に期待するしかない。

 一見アメリカは「中東の民主化」でイスラム原理主義勢力の伸張に協力しているように見える。しかしそれは政策目的ではなく、侵略者のご都合主義が生み出した矛盾・“ジレンマ”と呼ぶべきものである。

 ブッシュの政策が逆に巨大な敵を招くという状況は明らかにアメリカの「中東民主化戦略」の失敗を意味している。

 ユダヤ人金融資本が管理するアメリカ政府は、イスラエルのために一貫して安全保障と領土的拡大を優先してきたのであるが、イスラム圏全体の原理主義勢力の伸張を招きつつある現状から、アメリカが戦略転換、もしくは手直しの可能性が強まっているのである。

 ブッシュがイラクの油田に固執し,イスラエルが占領地の入植地に固執すれば、両国は死を恐れないイスラム原理主義勢力の巨大な敵との衝突で国力を消耗する可能性は高いのである。

 2月3日に発表された米国防報告は「反テロ戦争」を「長期戦争」と位置づけている。イラク占領に大義がないためカイライ軍の育成も進まず泥沼にはまっているが、ブッシュは今年秋の中間選挙を前に敗北を認めるわけにはいかず、またイラクの石油を諦めることもできないのである。

 イスラエルもイスラム圏全体の原理主義勢力の勃興で、大イスラエル主義からの撤退は避けられず、入植地を犠牲にしてでもパレスチナとの国境線の確定と和平を求める声が高まっている。しかし和平を進めていたラビンが85年に暗殺され、今またシャロンが病気で倒れた今、強力な指導者を欠いている。

 イラク国内は、スンニ派とシーア派の対立、及びクルド族の独立願望の高まりもあって、新たな内戦の可能性も残っている。また自治権を獲得したクルド族はイラン・トルコ内のクルド族を巻き込んだ独立戦争の可能性も高まっている。

 ブッシュは大統領になってすぐクリントンがまとめつつあった中東和平をぶち壊し、「反テロ戦争」へと突き進んだが、その結果は収拾のつかない混迷を招き寄せている。中東の混乱は、すなわち“石油危機”である。ブッシュの覇権主義が中東を“世界の火薬庫”としつつある。

 熱狂的なイスラム原理主義勢力に、正面から武装解除し屈服を迫るアメリカの対応は、ひとつ間違えば「反テロ戦争」を「文明の衝突」へと発展させることになるかも知れない。

 アメリカがその国力の消耗を避けたいなら、撤兵によって“息継ぎの平和”へと転換するしかない。巨額の戦費、深刻な財政赤字にもかかわらずブッシュは当面戦略転換できない局面にある。戦争というものは起こすのは簡単だが、終息させるが難しいのである。

 中東情勢から目を離せない局面が続く。