No.51(2005年8月号から)

朝鮮半島の対立を温存する米・朝

休会となった6カ国協議


 12日間に及んだ6カ国協議は決裂を避けるための半島の非核化をうたった合意文書すらも採択できないまま8月末まで休会に追い込まれることになった。

 協議を通じて明らかとなったのは北朝鮮のしたたかな交渉術であり、核保有宣言で、「核」の交渉カードを高めて、金正日体制の保証、エネルギー支援、米朝関係の正常化、などの獲得の上にウラン濃縮計画を否定することと、核の平和利用の口実で、事実上核開発をも継続することを目指している。

 共同文書案には日本が求めている「人権」や「ミサイル」という文字はなく「拉致」も会議でタブーとされた。

 核の平和利用については共同文書第4次草案には北朝鮮が核拡散防止条約(NPT)に復帰すれば平和利用の権利があることが盛り込まれていた。しかし北朝鮮はNPT体制のもとでの査察の完全な受け入れなどの条件を事実上拒否した。

 6カ国協議は、核開発を進めている北朝鮮に核を放棄させ、その見返りに体制保証と援助を与え、朝鮮半島の冷戦構造の解体を目指すのもであるが、元々この協議はアメリカの側から見ても北朝鮮の側から見ても時間稼ぎの側面が強くあるので、まとめるには無理があった。

 北朝鮮から見れば、イラクは核を持っていなかったから侵略されたのであり、「核」を保持すればアメリカであっても譲歩をしてくることが明らかとなった。このことは援助欲しさに「核」を放棄すれば金正日体制を守ることが出来ないということであり、ここから体制保証と援助を保ちながら、ウラン濃縮の開発と平和利用を口実とした核保有の道も残しておこうという北朝鮮の交渉態度が生まれた。

 また、アメリカの側から見ればイラクの泥沼化と米軍のトランスフォーメーション〈再編)が終っていない下では北朝鮮に武力を使用できない。在韓米軍は北のミサイルの射程内に駐留しており、ここは交渉で時間稼ぎするしかないのである。

 経済的に消耗しない形で世界覇権を確立しようとするアメリカは、より効率的な、機動的でコンパクトな米軍へと再編しているのである。冷戦型の重厚長大型の師団編成の軍隊を朝鮮半島の38度線近くにとどめるのではなく、コンパクト化し、半島南部に下げた形で北朝鮮への全面空爆計画を立てている。しかし、このブッシュ政権内の強硬派の計画には、日米同盟とミサイル防衛とトランスフォーメーションが前提となっている.したがってアメリカは当面は6カ国協議の継続による半島の対立固定化を選択しているように見える。

 ロシアのプーチンは朝鮮半島の対立構造を解体することで、EUと北東アジアをシベリア鉄道でつなぎ、シベリア開発を推進する戦略を持っている。これが実現すれば高い成長によって戦略的地位を高めている東アジアとユーロ圏が結合を強めることであり、アメリカは東アジアをドル圏につなぎとめる上で半島の対立が当面継続することに利益を見出している。

 今年11月の東アジアサミットは、アメリカ抜きを前提に進められており。アジアでのアメリカの軍事的プレゼンスを確保する上でも半島の対立が当面必要なのである。

 北朝鮮の金日成政権は、核を放棄し援助を得ても、その後の市場経済化で体制が揺らぐのは避けられず、体制の延命のためには現状の“鎖国”(=封じ込め)状態の方がいいのはわかっている。

 こうして米朝の当事者だけが対立関係の存続を望んだ“奇妙な時間稼ぎ外交”として6カ国協議がやられているのである。

 重要なことは核を持っていなかったイラクと核を持っている北朝鮮へのアメリカの反応の違いから、安全保障のために核保持を選択する国が増加することである。小国に核放棄を迫るなら核保有国の核も放棄されるべきである。そもそも自分は地球を何回も全滅できるだけの核を保持し、その力を背景に他国を強大な軍事力で侵略していながら、他国の核は認めないというブッシュ米政権の主張は筋が通らない。

 今回の6カ国協議で表面化した重要な点は、日本外交がアジアで完全に孤立していることである。

 日本が主張した拉致問題は、中国も韓国も支援せず、アメリカですら「合意文書案」に盛り込まなかったのである。

 6カ国協議がまとまり、北朝鮮への見返り援助が必要となった時、金を出す役割だけが日本に求められることになる。日本の代表は北朝鮮代表に満足な会話すら拒否されて、最後に20分だけ形だけの聴聞がやられただけで、全く無視されている。

 朝鮮半島の対立関係の温存と、そのための“時間稼ぎ外交”に追随していては拉致問題は解決しないことは明らかである。

 「対話と圧力」を“バカの一つ覚え”のように繰り返している小泉は今回の郵政解散総選挙では拉致問題を人気取りに利用できず、さりとて経済制裁に踏み込めず、外交的無力・無策をさらけ出している。小泉は外交面を配慮せず、靖国参拝を強行したためにアジアで孤立し、国連の安保理常任理事国になることも失敗した。この日本外交のお粗末さは主として小泉に責任がある。情けないことに小泉は責任をごまかすために国民の目を郵政民営化だけに向けさせている。

 アメリカの属国ゆえに、国家の戦略を持ち得ない「対米追随外交」では、日本の国民も国益も守れないことは明白である。日本は対米自立を戦略課題として掲げなければ拉致問題は解決できず、戦後一貫した平和主義を貫くことも出来ない局面が来ているのである。