イラクで侵略戦争を続けるアメリカの2004年の経常赤字は過去最大となる約6660億ドル(約72兆円)に達している。
一般的に海外での軍事支出は、いったん始まると、とめどもなく進むものである。
イラク戦争は「大量破壊兵器」のデッチアゲを口実として始まったが、その本当の理由はイラクの石油資源と自国の軍需産業と石油産業のための戦争であった。
ブッシュは国益の名で私的利益のために多くの人命を犠牲にしたことになる。
基軸通貨であるドルの通貨発行益を独り占めにするアメリカは、この莫大な軍事支出によって、国内経済を過熱し、その結果日本や中国の工業製品がアメリカに大量に流入し、過剰なドルが日本と中国などに流出する。
アメリカ政府はこのドルを米国債を売ることでアメリカに環流させる。この米国債の増発はアメリカ国内に新たな需要を創り出すのである。
こうしてアメリカはイラク戦争の費用を日本や中国に事実上負担させて国内経済を活性化させているのである。
アメリカが1971年に金とドルの交換を打ち切ってから、アメリカは国債売却によるドル環流によって、代価もなしに外国の資産を利用できるようになった。
債務国というアメリカの弱みに見えるものが世界の通貨・金融システムの基礎となっている。この米国債本位制とも言うべきシステムは将来のドルの大暴落を必然とし、アメリカへの融資国の破滅をもたらすこになる。ドルの暴落を回避するには、EUや日本や中国はアメリカの国債を買い続けなければならない。
戦争のたびにアメリカの対外債務は膨れあがり、アメリカはこの対外債務を武器にEUや日本を服従させてきたのである。
アメリカの巨大な軍事力を支えるものは、ドル支配による国家による国家の搾取であり、そのことがEUの経済統合を推進し、統一通貨ユーロを生み出し、多極化への流れを生み出したのである。
東方へと拡大するEUの共同市場は、すでに人口と工業力でアメリカ合衆国をしのぐ巨大なものとなった。EUにはインフレ規制があり、したがってユーロはドル以上に信頼を獲得しつつある。
アメリカはEUの統合に対抗するため北米自由貿易圏を作ると共に中東産油国イラクがユーロによる石油決済へと進むや、直ちに軍事力によるイラク支配へと踏み切ったのである。
欧州の統合はアメリカの一極支配への挑戦であった。
欧州と北米の“経済のブロック化”は急速に経済発展を遂げつつある東アジアの国々を「東アジア共同体」へと向かわせることになった。
東アジアの域内貿易依存度は、2002年で42.1%と急速に増加している。(1980年は22.6%)
ASEAN諸国に日本、中国、韓国を加えた「東アジア共同体」構想は、今のところ中国の主導権で進んでおり、「東アジア・シンクタンク・ネットワーク」(NEAT)の中央事務局は中国社会科学院に置くことが決まった。
今年の12月にはクアラルンプールで第1回東アジア・サミットが開かれることになった。
ドルによる一極支配のために「経済のグローバル化」を掲げるアメリカは、「東アジア共同体」構想を快く思っていない。なぜならブロック化がEUのユーロのようにドル支配からの脱却へと進むからである。
しかし自分が北米自由貿易圏を作っている以上、公式には反対できない。そこで前国務副長官のアーミテージに反対の主張をさせることにしたのである。
アーミテージは4月29日、朝日新聞社のインタビューに応じて、アメリカ抜きの「東アジア共同体」について「米国がアジアで歓迎されていないと主張するのとほとんど変わりない」「深刻な誤りだ」「そういう方向性が出ること自体が問題だ」と懸念を表明している。
問題は「東アジア共同体」構想を中心的に進めている中国の狙いがどこにあるのか、という点である。
中国の現指導者は、毛沢東の第1世界(アメリカ)を孤立させ、第2世界(欧州と日本)と第3世界(発展途上国)を団結させるという世界戦略を既に捨て去っている。
資本主義化を進めたために、中国はアメリカ市場に依存しすぎており、原油輸入大国となって戦略的脆弱性も高めている。
したがって中国政府のねらいは反米ではなく、アジア地域の覇者となること、さらには将来のドル崩壊の打撃を軽減しようとすることにあると見られる。
日本政府は愚かにも「東アジア共同体」にアメリカをオブザーバー参加させようとしている。
しかしアメリカは90年にマレーシアのマハティール首相(当時)が提案した「東アジア経済協議体」(EAEC)構想に反対し、つぶしたこと、97年の東アジア不況の時の日本の1000億ドルの提供による「アジア通貨基金」創設にも反対したことを見てもわかる通り、アメリカ以外のアジアでの主導権を認めることはない。
覇権を追求するものが、ブロック化と多極化を認めるわけにはいかないのである。
中国が一時的に反日デモを容認し、日本の常任理事国入りに反対したのは「東アジア共同体」の主導的地位を固めるためにほかならない。
東アジアも多極化の中で「合従連衡」の外交の時代が来ているのである。
日米同盟の強化による日本の米戦略への取り込みを、一方的に受け入れている日本政府は、「東アジア共同体」とアメリカの両にらみながら、“主人”が
反対している政策を進めるわけにはいかず、内心は「東アジア共同体」構想が潰れる事を願っている。
しかし、アジア諸国の中には1997年のアジア経済危機でのアメリカの略奪的仕打ちを忘れてはいないので「東アジア共同体」構想が進展するのはさけられない。日本はアメリカの顔色を見ながら同構想に参加していくしかないのである。
アメリカのノーベル賞経済学者ジョセフ・E・スティブリッツは「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」の第4章・東アジアの危機−大国の利益のための「構造改革」−の中で、以下のように97年のアジア危機を描いている(少し長いが以下に引用する)。
「IMFは最初、アジアの国々にたいして市場を投機的な短期資本に開放するようにといった。各国がそれに従うと、大量の資金がいきなり流入してきたかと思うと、また急に出ていった。するとIMFは、利益を上げて緊縮財政を実施しろと言った。その結果、深刻な景気後退が起こったのである。
資産価値が急落すると、IMFは損害を被った国々に、特売価格にしてでも資産を売却せよと進言した。さらにこうも言った。
会社にはしっかりとした外国の経営陣が必要であり、(これらの会社が過去数十年間、最も羨望される成長の記録を出していたことは都合よく無視した。でないと経営が悪いとはいえないから)、そのためには外国人に経営を任せるだけでは不十分で、外国人に会社を売らなくてはならないと。その売却業務を行った外国の金融機関はかつて資本を引き揚げて危機を加速させた当の金融機関と同じであった。
これらの銀行は、経営難に陥った会社の売却や分割で多額の手数料を手にしたのである。ちょうど、最初にこれらの国々への資金導入で多額の手数料を手にしたように。」
97年のアジア経済危機について、アメリカ金融資本がIMFを使って陰謀を仕掛けたと考えているマレーシアなどのASEAN諸国は、アメリカを「東アジア共同体」に参加させたくないと考えている。
同様にアメリカ抜きの「東アジア共同体」を目指している国は多い。他方中国の軍事力増大を警戒する国はアメリカを参加させようとしている。
今のところアメリカ抜きの共同体を目指す方が多数派であり、小泉の対米追随一辺倒が、東アジアにおける日本の外交的孤立を生み出している。
日本は中国とアジアの盟主の地位を争う必要はないし、常任理事国入りもアメリカが国連改革に反対している下では意味がない。
重要な事は、発展している東アジアとの関係を強化し、アメリカの際限のない“ドル垂れ流し”によるドル崩壊のリスクを軽減するためにも、世界の多極化の流れに対応して、対米自立のための必要条件を整えなければならないことである。
小泉の対米一辺倒は、いわば日本がアメリカの犠牲になって亡びる道である。
「東アジア共同体」構想の具体化が進む中で、アメリカの顔色ばかりうかがう日本外交の戦略的無策ぶりが明らかとなっている。
アメリカの「米国債本位制」が崩壊した時、日本経済が破滅に直面するのが分かっているのに、それへの戦略的対応がないのである。
日本はロシア・中国と戦略的関係を築き、ドル崩壊に備えて対米自立のための必要条件を早急に整えなければならない。
アメリカは覇権国から没落する国であり、世界は「合従連衡」の時代にあり、外交に多元的・柔軟性を持った戦略が必要になっている。ドルの基軸通貨としての地位が失われれば、アメリカは強大な軍事力を維持できなくなる。
日本の自立の時が近づいているのである。