No.45(2005年2月号から)

−巨大な隣人にどう向き合うのか−

対中、国家戦略の必要性

投稿 文筆家 佐藤 鴻全  


21cジャーナル編集部に佐藤 鴻全氏より投稿がありましたのでご紹介します。
本誌では紙面の都合により一部割愛しています。このホームページでは本誌のまま掲載しています。全文は佐藤氏のホームページをご覧ください。
佐藤氏のホームページ

 中国の経済発展は目覚しい。

  反面それに伴い、バブル崩壊の危険、沿海部と内陸部の経済格差、エネルギー・食糧・水不足、環境汚染、一党独裁体制の矛盾、人権問題、元切り上げの必要、知的所有権の遵守、劣悪な労働条件の改善等々の様々な問題が指摘されている。また、領土領海については、台湾独立問題、チベット等の辺境民族の独立問題、南沙諸島等の周辺諸国との領有権問題等を抱える。

 このように、中国は勃興しつつ、かつ脆さを孕みつつ、更に経済面、軍事面で周囲に 脅威を与えており、東アジアのみならず国際情勢の最も複雑な要素となっている。

 我が国もこの国への対処の仕方を整理し、総合的な国家戦略を立てて臨む必要がある。筆者の考えを以下に示す。

 なお、実際は相互に重なる部分が多いが、便宜上、経済通商面、安全保障面、外交面に分けた。

◆経済通商面

 中国は魅力的な生産基地であり、巨大消費市場である。ここへの進出に臆病過ぎるのは、企業に取っては戦いの放棄とも言える。

 しかしながら、今後の元切り上げと賃金の上昇、中国のバブル崩壊の危険、WTO加盟後であるも法治の未整備と人治による契約や課税面等の不確実性等を考えれば、私企業においてはこれらのリスクを計算し、余程体力のある企業でなければ逃げ足の早い投資に止めるのが適当だろう。

 これ等はあくまでも個別の私企業の判断の問題であるが、一方でODAを使っての中国への新幹線の売り込みの計画が、(1)日中友好の象徴とする、(2)日本企業の受注機会増加、(3)新幹線の高速鉄道スタンダード化、等を理由に財界・政府主導で積極的に進められている。

 しかしながら、当のJR各社は中国側の運行保守体制や契約面でのリスクから揃って否定的である。

 実務を司る事になる当事者がそう見る以上、国際版の第三セクター問題のようになる可能性が相当に高い。従って、この件は商算ありと見る積極的企業・業界が身銭を切り自らのリスクだけで行うべきプロジェクトでこそあれ、国民の税金を使って行うべきものではない。

 新幹線に限らずこの種のプロジェクトでは、企業・業界益と国益は相互に関連はあれども基本的にリスク負担の面では峻別されるべきである。

 次に「東アジア共同体」構想についてであるが、中国がASEAN諸国との2国間FTA(自由貿易協定)で先行している以上、我が国は東アジア共同体構想を積極的に推進する事によって域内関税撤廃でのメリット享受を目指すべきである。

 しかしその際、原則農産物も自由化するも食糧安保を確保するための仕組み作り、社会的コストを考慮した労働者受容れの高度技能労働者への限定と出入国管理の強化、中国の影響力の過大を防ぐためインド・台湾・香港・オーストラリア等への加盟国拡大と米国を関与させるべき事等には留意すべきであろう。

 総じて「東アジア共同体」は、中国の影響力増大の道具とさせる事無く、牽制の道具とし、中国封じ込めと言っては言葉が過ぎるが、中国囲い込みを図るべきである。

◆安全保障面

 領海侵犯等については、これを防ぐ艦船等の充実、排除手順の整備等を伴い厳しく対処するべきなのは言うまでもない。

 しかしながら、05年度予算での政府・財務省の装備削減方針はこれに逆行しており、政治主導での修正がなされるべきである。

 また、中国の核ミサイルの照準が日本を向いており、日本がNPT(核不拡散条約)により核を持たない選択をしている以上、ミサイル防衛(MD)を充実させる事は喫緊の課題であり、その予算7000億円〜1兆円は惜しむべきではない。

 これは、当然ながら第一には北朝鮮の暴発に対する抑止力となる。

 次に、前述した「東アジア共同体」構想においては、どこまで有効なものとなるかは別として、地域紛争の緩和、テロ対策、核兵器配備の縮小、昨年末のような津波被害への対処、その他突発的事態の防止のためにも、信頼醸成と安全保障の枠組作りにも取り組むべきである。

 東アジア地域の安全保障については、現在米国のプレゼンスは欠かせないが、米国が負担軽減のためそれを弱める傾向がある以上、各国との話し合いの下、その空白を埋めるため日本がプレゼンスを高めて行くべきだろう。

 そうしなければ、中国の軍拡傾向等を伴いこの地域のパワーバランスが崩れ不安定地域となる恐れが大きい。