No.42(2004年11月号から)

ブッシュ再選後の中東政策

投稿 文筆家 佐藤 鴻全  


21cジャーナル編集部に佐藤 鴻全氏より投稿がありましたのでご紹介します。
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 米大統領選は、接戦の末、民主党対立候補ケリーを破り共和党現職ブッシュが再選された。 今後の米国の対外政策の中で特に中東政策を予想してみたい。 そのためには、ブッシュ政権のこれまでの政策の傾向、その政策を取る理由を正確に分析する事を第一に行うべきなのは言うまでもない。

 ブッシュ政権が最初に行った対外的イベントは、9・11同時多発テロ直後のアフガン攻撃である。

 米国がテロ容疑者ビンラディン以下アルカイダの捕縛または殺害を図る事を理由に起こしたこのアフガン攻撃については、実質上の報復戦争であるとして国連決議としての同意は得られなかった。

 しかし各国は、何らかの形で「仇討ち」しなければ国内世論により米国政権と社会が持たない事に理解を示しこれを容認し協力した。

 ブッシュ政権の最も大きなイベントは、もちろん次のイラク戦争である。イラク戦争は、最大の開戦理由とされた大量破壊兵器の脅威が存在すると本気で信じていたのはほぼ米国民だけであった事が示すように、客観的には必然性のない戦争であった。

イラク戦争の位置付け

 イラク戦争は、9・11テロの機会を利用した、ネオコンの主導と米国エスタブリッシュメント(支配層)各勢力の合意による、石油ドル決済体制維持と石油資源確保、軍需復興利権等のために中東覇権の足掛かりを作る事を目的とした、サダムフセイン退治の戦争である。

 石油ドル決済体制が崩れれば、ドルが基軸通貨の地位を退位する事になり、膨大な財政赤字と貿易赤字によって成り立っている現在の米国の繁栄の維持は不可能になる。また、冷戦後、経済力を付けつつあるEU、中国、アジア諸国、ロシア等により米国が相対的に衰退する事を防ぐ事と資源の需給逼迫に備えるためにも、石油ドル決済体制と石油資源確保は米国の長期戦略の中心である。

 これに軍需利権、復興利権を求める軍産複合体、イスラエルの中東での地位と安全保障を確保したいユダヤロビー、聖書の預言を成就させたいキリスト教原理主義勢力が加わり、これに再選と父ブッシュの雪辱戦を果たしたい子ブッシュが乗って開戦が行われた。

 米国民は、ユダヤ系の支配するマスコミの世論操作も加わり、大量破壊兵器によるテロ再発の恐怖のためにイラク戦争開戦を支持した。

 上記のような米国の恣意性と、多分に後付け的なもう一つの開戦理由「中東の民主化」の理念が「大中東構想」のスローガンの下に表裏一体となって、かつ両者が鬩ぎあって並存しており、イラク戦争の功罪と帰趨を分かり難くしている。

 これは、かつての大日本帝国によるアジア支配と「八紘一宇」「欧米の植民地からのアジア解放」の理念が「大東亜共栄圏」のスローガンの下に表裏一体であった事に似ている。

イラン戦争と核使用?

 さて再選されたブッシュ政権は、今後の対外政策をどう進めて行くのか。

 政権人事が煮詰まってくればある程度輪郭が見えて来るが、それ自体まだ憶測を生む段階である。

 基本的なシナリオとして、普通に考えれば、これまでの政策の延長線上に今回の再選の力になった勢力への配慮をより加味した政策を取ると考えるべきであろう。

 イラク戦争は現在泥沼の様相も見せているが、このまま来年のイラクの国政選挙後、米軍が単純に撤退すれば、反米政権が樹立されかねない。その場合、イラク戦争の当初の主な目的である親米政権の樹立と中東支配の足掛かりが失われる事になる。

 既に1000人以上の米兵の戦死者と2000億ドル以上の戦費を費やしたイラクからの単純な撤退を、米国支配層等と米国民が黙って許すと考えるのは難しい。

 ブッシュ政権は、イラク新政権と武器供与協定を結ぶ等で親米路線を維持させるため、裏表から様々な工作を行うと予想される。

 また、国境からのシーア派テロ勢力の流入や核開発を理由に、イスラエルと連携して、一気にイラン、シリア攻撃等に出て中東覇権の完成を図る可能性もある。その際の切り札として、小型戦術核を使用する事も考えられる。

 なお、対北朝鮮攻撃については、日本と並んで大量の米国債の消化先である中国との関係を考えれば、朝鮮半島はその庭先であり、かつ石油の出ない東アジアで事を構える事は直接の経済的メリットは無く、少なくとも中東よりも後回しとするだろう。

ブッシュの変心?

 もう一つの可能性として、2期目の大統領としてブッシュが支持勢力の要求に囚われる事なく自由に政策を実行し、ニクソンの対中国交樹立、レーガンの冷戦終結のように歴史に名を残す事を目指すシナリオも有り得る。

 父ブッシュが果せなかった大統領選再選を遂げ、父の強力な反対を押しきってイラク戦争の開戦に踏み切った事にも垣間見られるエディプスコンプレックスから解放されたように見える事がこの可能性を後押しする。

 歴代大統領と較べると賢くは無さそうだが、どう見ても悪人や狂信者には見えず純朴なテキサス人に見えるブッシュが、実際何を考えているかは分からない。

 しかし、大量破壊兵器がなかった事を未だに半数以上が認識していない一般米国民と違って、「CIA」に騙されたとまでは認識している当事者のブッシュは、内心イラク戦争は失敗だったと考えていても不思議はない。

 今後、ファルージャ等に大規模な掃討作戦を行うにしても、イラクの正式政権樹立後は、石油利権と中東支配の野心を捨てて、国際協調の下イラクの事はイラク国民の決定に委ねる選択をする可能性はある。

 この場合、中東全体の泥沼化によるドカ貧の可能性は薄まるが、新政権の親米度合いが続く可能性は低く、米国の繁栄維持のためには取り分が少ない。 また、石油ドル決済体制を維持できず「普通の国」となってしまう岐路となる可能性もあり、米国の運命を天に任せた一種の賭けとなる。

 その報酬は、尊敬するレーガンの「冷戦終結の立役者」に並ぶ「中東民主化の父」の名誉か。

 40年前のケネディー暗殺も真相は未だ不明だが、ブッシュがこの選択をした場合、同じ運命を辿る可能性も否定は出来ない。

歴史の行方

 筆者は、「欧米の植民地からのアジア解放」が歴史の必然であった様に、「中東の民主化」もまた歴史の必然と見る。

 その上で、「欧米からのアジア解放」が、日本の進駐と敗北、アジア各国のナショナリズムの芽生えによる旧宗主国に対する解放戦争によってなされた歴史の弁証法的展開を見れば、今後の大きな流れとしては、曲折を経つつも「中東の民主化」が米国の進駐、反米感情によるナショナリズムの勃興、米国の撤退という展開によってなされると見る。

 しかしながら、その流れが、米国、イスラエルによるイラン、シリア、サウジアラビア等に対する小型核を使った先制攻撃や、露骨な利権確保、それらに対抗するテロの世界への蔓延等の激しい過程を経るならば、流れる血は限りなく、第3次世界大戦勃発の可能性すらある。

 経済規模で世界第2の大国である日本は、本来歴史の転換点に当たり、今後の激動する世界を方向付けて行く事について国力に応じた責任を負う。

 しかしながら、既に我が国の現政権は、その発足直後から後ろ盾であるブッシュ政権にピタリと付き従い、国家の運命を一蓮托生とする事を決めている。

 第2期ブッシュ政権がどういう対外政策を取るかは現時点では不明確であるが、歴史学者アーノルド・トインビーの言葉を待つまでもなく、独立の気概と主体性を失った国家は亡びの門に在り、国益を確保する事もまた侭なるまい。