No.41(2004年10月号から)

自立を考慮しない属国的「安全保障」論

安保・防衛懇報告


 小泉首相の私的諮問機関である「安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長・荒木東京電力顧問)が、10月4日に首相に報告書を提出した。同報告書は「はじめに」の中で海外派兵を正当化するためテロ等のさまざまな脅威への対処として「できるだけ早期に外側で脅威の予防、火消しに努めることが重要」とアメリカの反テロ戦争と同じ論理を持ち出している。

 報告は、第1部で、新たな安全保障戦略の目標として、これまでの「日本の防衛」に加え、新たにテロなどの脅威に対する「国際的安全保障環境の改善」を打ち出し、こうした目標に取り組む最大の柱として「米国との協力」「日米同盟」を位置づけている。

 報告はさらに、国家からの脅威のみを対象にしていたこれまでの「基盤的防衛力の概念は見直す必要がある」として、アメリカの戦略である反テロ戦争に参加するための「多機能弾力的防衛力」という考え方を打ち出し、自衛隊の国際的な活動を「本来任務化」することを打ち出している。同時に特措法をつくらなくても自衛隊が多国籍軍などに加わるようにする一般法制定の検討も求めている。

 報告は第2部「新たな安全保障戦略を実現するための政策課題」として、日米同盟の維持強化を強調し、「グローバルな米軍の変革については積極的に協議を進めるべきである」として、米国との戦略協議の実施、新たな「日米安保共同宣言」や新たな「日米防衛協力のための指針」の策定を提起している。

 このほか報告は弾道ミサイル防衛で武器輸出3原則等を見直す必要が生じることを考慮し「少なくとも米国との間で武器禁輸を緩和すべきである」と提起している。

 さらに報告は第3部「防衛力のあり方」の中で、ミサイル防衛システムの導入とゲリラ特殊部隊への即応、海外任務遂行能力の向上、サイバーテロに対抗する情報通信ネットワークの構築などを提起し、第4部では新たな防衛計画の大綱の策定を提言している。

 以上が安保・防衛懇報告の主な内容である。この中で重要と思われる特徴は第1に「外側で脅威の予防・火消しに努めることが重要」としてアメリカの反テロ戦争に呼応していることである。

 第2の特徴は、日米同盟を「わが国防衛の大きな柱」と位置づけ「日本の防衛」の名で海外派兵への道を開いていることである。ここには「アメリカ追随」との批判をかわすための主体的派兵の意図が示されている。同様に「多機能弾力的防衛力」の構想は反テロ戦争への参加のための構想といえる。

 とりわけ重要なのは報告が「中東から北東アジアにかけての『不安定の弧』における脅威」を指摘して、米軍の戦略的変革と同じ「不安定の弧」(図参照)という同じ言葉を用いて日米安保の全地球的役割を受け入れていることである。

第3の特徴は、何兆円かかるかわからないミサイル防衛の導入である。これによって日本はアメリカの兵器体系に今後何十年も縛られることになる。これは日本の従属固定化につながる。

 第4の特徴は、報告がアメリカ追随一辺倒であることだ。まるでアメリカの戦争戦略に全面追随の内容になっていることである。

 当初同懇談会は、当時の福田官房長官が「何でも米国の言いなりではいけない」「防衛政策は防衛庁だけが決める問題ではない」との問題意識がつくられたのである。ところが福田が辞任し、その後出てきた報告は、アメリカ言いなりとも言える内容となっているものである。結局福田の辞任で小泉政権のブレーキ役がなくなった結果このような報告になったと思われる。

 安保・防衛懇報告の最大の弱点は、地政学的戦略分析ができていないことである。

 地政学的には、日本は極東に存在している。太平洋の向うのアメリカ一辺倒で、戦争国家体制を進めてよいであろうか? 対イラク戦争をめぐって、アメリカ覇権主義の軍事的横暴に対し、EU,、ロシア、中国のユーラシア連携が進んでいるとき、これらの国との戦略的関係を一方的に放棄して、日本の安全を語ることができないことは明白ではないか?  イラク一国すら占領・制圧できないアメリカに、日本の安全を委ねて、しかもアメリカの戦争路線に追随することは、日本を亡国に導くものだと断言できる。

 安保・防衛懇報告は、その名称とは正反対の日本亡国の報告書なのである。このことを広く日本の人々にしらせることが重要となっている。

 日本の自立を考慮しない「安全保障」とは、所詮アメリカ覇権主義戦略への売国的・属国的追随というべきで、とても自立した国家戦略とは呼べないのである。