No.39(2004年8月号から)

米大統領選=覇権戦略で民主・共和は一致

“借金帝国”のたそがれ示す


 7月末にアメリカ民主党大会が開かれ、大統領候補にケリーを選出し、政策綱領を決定した。「国内で強く、世界で尊敬されるアメリカ」をテーマとする政策綱領は、外交・安保政策が半分を占めているが、ブッシュ政権との政策的違いを際だたせるという点では中身に乏しいというのが一般的評価である。

 それはケリーがイラク戦争に賛成投票していることもあって、対テロ戦争勝利、大量破壊兵器の拡散防止も共和党と同じで、違いは民主党が同盟国にイラクの経済・軍事的責任を分担させるとしている点、中国への労働者の権利侵害と為替相場操縦について即座に調査するとしている点、同じく日本に自動車市場の貿易障壁を取り除く対象とするという保護貿易主義的政策を掲げていることである。

 北朝鮮政策では共和党の6者協議に対し、民主党は2国間協議を掲げている。このため、北朝鮮は米大統領選の結果待ちの姿勢を見せている。

 注目すべきは民主党の政策綱領が、これまで批判的だった「先制攻撃ドクトリン」を容認する姿勢を打ち出していることである。

 国内経済政策では共和党と民主党の違いは明確になっている。

 民主党は年収20万ドル以上への減税の廃止で、ブッシュの金持ちへの減税の恒久化と真っ向から対立する。民主党は中産階級の優遇と雇用創出の税制を掲げ、ブッシュの金持ち優遇との違いを出している。

 つまり今回の大統領選では、イラク戦争は争点になっていないのである。それはイラク戦争の戦略的位置づけで共和党・民主党の違いはなく、米支配層内部が一致していることを示している。

 アメリカ支配層におけるイラク戦争とは、アメリカの世界覇権(それは最強の軍事力とドル支配によって支えられている)がEUの政治統合とユーロ創出による挑戦で戦略的危機に直面したこと、2000年11月イラクのフセインが自国の石油決済通貨をドルからユーロに切り替え、続いてドル安をおそれた石油輸出国機構(OPEC)もユーロに資金シフトし、世界の貿易決済通貨のドルの地位が脅かされたことに起因している。

 アメリカは対ユーロ戦略として中東油田地帯を軍事力で占領するイラク戦争を「反テロ戦争」として行っているのである。

 アメリカは世界一の赤字国・債権国である。国内の巨大な財政赤字を埋めるために、米財務省証券(米国債)を貿易黒字国(日本や中国やEUなど)に買わせている。

 アメリカだけが世界通貨としてのドルの発行益を独り占めでき、「双子の赤字」の政策が実はアメリカの覇権を象徴する巨大な軍事力を支える財政的仕組みなのである。

 日本・中国・EUなどのアメリカの貿易相手国は自国通貨との為替レートを維持しようとして、ますますドルを買い支える。輸出で稼いだドルで資源や金を買うことは禁止されているため、米国債を買うしかないのである。

 つまり、アメリカは“ドルをタレ流し、米国債を売ってドルを環流させることで他国を搾取し、支配している“借金帝国”なのである。

 別の言い方をすれば、アメリカの戦争費用は、売ることのできない米国債購入という形で日本や中国やEU諸国が税として供給しているということである。

 EU諸国が対米自立を目指して、政治統合を進め、ユーロをドルに対抗して創出したのは必然だったし、アメリカが対EU戦略として、ユーロ圏へと動き始めた中東産油国への軍事支配としての「反テロ戦争」「イラク戦争」を始めたのも当然の成り行きだったのである。つまり問われているのは、アメリカの一極支配か、それとも多極支配かという世界の新たな枠組みをめぐる対立であり、民主党も共和党も、アメリカの覇権維持では一致しているということなのである。

 民主党を支持しているニューヨーク・マンハッタンの米金融独占は、米欧の関係修復で世界中の資金をアメリカに流入させたいのであり、共和党を支持している産軍複合体と石油資本は、対EU(ユーロ)封じのための戦争路線に利益を見いだしている。両者は覇権維持では一致していても、両者の支持基盤の利害は対立しており、大統領選挙は、米国内の景気の動向とイラク情勢次第でもつれる可能性は強いが、いつでも政策的手段のとれる現職ブッシュが有利なのである。

 すでに明らかにしたように、アメリカは世界全体の軍事費の約7割を支出して、巨大な軍事力を維持しているが、その財政的裏付けは「米国債本位制」にあると言われている。

 それは米国債と引き替えに、代価もなしに外国の資産を利用することができる仕組みである。すなわち、債務国という“強い立場”でアメリカは世界を搾取し、支配しているが、重要なことは、このような無法がいつまでも続かないことである。

 世界はユーロの出現で多極世界へと進まざるを得ないし、ドル支配は今まさに“たそがれ”を迎えているのである。

 イラク戦争の泥沼化が示しているのは、アメリカ覇権主義の力の限界である。ここにアメリカが日本を戦争路線に引き込もうとして9条改憲を急ぐ動機があることを見て取らねばならない。世界の多極化は、日本の対米自立の好機でもあることを鮮明にしなければならない。。

 我々は、日本国憲法の改憲には日本が自立した後に、自立政権の下で進められるべきであると主張する。アメリカの戦争協力のための改憲には手をつけるべきでないと考える。

 アメリカの覇権に軍事的に追随・協力すれば「対等の同盟になる」と考えたり、「自立できる」と願望することは、甘い幻想であることを明らかにしなければならない。