No.105(2010年2月号から)

秋の中間選挙を前に支持率低下の米政権

内政重視で人気回復狙うオバマ大統領


   オバマの今年の一般教書演説は約70分だったが、そのほとんどは雇用問題などの内政で、外交・安保に触れたのはわずか9分間だった。

 米民主党は今年1月のマサチューセッツ州の上院補欠選挙で共和党に敗北した。同選挙区はエドワード・ケネディ議員の死去によるもので、元々民主党の牙城だった。今年11月にはアメリカでは中間選挙があり、オバマ大統領はこれに向けて内政に全力を投入しなければならない局面となった。

 アメリカ経済は今も不況下にあり、失業率は10%を超え、医療保険改革も議会を通過する見通しは立っていないのである。

 オバマは、選挙公約を実現する前に大手金融機関の救済を優先しなければならなかったことが支持の低下につながっている。このためオバマは自ら「チェンジ(改革)を実現できるか、確信を持てなくなった人が多くいる」と率直に支持率低下を認めざるを得なかった。

 オバマは「今後5年間で輸出を倍増させ200万人の雇用を創出する」(一般教書演説)として雇用対策に9兆円を投入することを明らかにした。

 アメリカは失業者が約700万人、財政赤字が約1兆3500億ドルに膨れ上がった。しかもイラクやアフガニスタンは泥沼の戦争となり、勝利の見通しは無い。オバマはこの対テロ戦費に1593億ドル(約14兆円)の予算を要求しているが、この額は当初の3倍となっている。

 巨額の公的資金の投入でアメリカの巨大銀行は「再生」したが、同時に幹部の巨額のボーナスも復活した。これに国民が反発しているのでオバマは金融規制強化を打ち出して国民の支持を回復しようと必死なのである。このため金融大手を対象に総額900億ドル(約8兆2000億円)の「金融危機責任料」を課す方針を固めた。また自己勘定取引の規制の方向を明らかにしている。

 こうしたオバマの人気回復策が雇用や景気への成果となるまでには時間がかかるため、秋の中間選挙でオバマが国民の支持を回復できる保障は無いのである。

 アフガニスタンへの追加戦費は330億ドル(3兆円)である。これで3万人の米兵の増派のほかに、3〜5万人の民間の傭兵が派兵されている。このためアフガニスタンとイラク関連の支出が膨れ上がったのである。ここには戦争で疲弊するアメリカの姿が現れている。

 アメリカ政府のトヨタ叩きは、自国の自動車産業への政治的テコ入れであり「雇用対策」であり、オバマの人気回復策なのである。

 今年2月1日に発表された「4年ごとの国防政策見直し」(QDR)は、中国やインドが台頭し、脅威の多様化で安全保障環境が変わったとして、米軍の優位性の相対的低下を認めているのが特徴である。また米軍がイラクとアフガニスタンで疲弊していることから同盟国との協力・「負担の共有」を訴えている。

 アメリカは以前からの二正面での大きな戦争を展開する戦略を放棄し、今後は複雑な脅威に対応するための同盟国への依存を強める方向を打ち出しているのである。

 オバマの困難は、前政権の残したツケ、すなわち戦争と金融危機の中で労働者・人民の生活に配慮した政治が後回しとなった事である。このため秋の中間選挙までにアメリカ経済を回復させ、雇用を増大することができなければ、中間選挙の大敗確実で、オバマはかつて「息継ぎの和平」を任務としたカーターと同じく1期だけの大統領となる可能性が出てきた。

 今年の一般教書演説でオバマは「ジョブ(職)」との単語を合計29回も繰り返して対策を約束した。それでもこの演説を「非常によかった」と評価したのは48%しかなかった。この数字は昨年2月の演説時より20%も減っている。

 大統領選の時とは違い「責任税」やリスクの高い金融商品の規制で金融資本を敵に回したオバマが、秋までにアメリカ人民の人気を回復できるか注目される。つまりそれまではアメリカは内向きとならざるを得ないのである。

 したがって外交では(戦争継続のほかは)アメリカが大きく動くことはないという事である。今のオバマ政権は国民の怒りをトヨタに向けるしかなかったのである。アメリカでは自動車産業の回復が雇用面では大きい比重を占めるからである。しかしトヨタの打撃は、アメリカ市場に依存する日本企業にとっても他人事ではないのである。アメリカは中国企業にも重い関税(反ダンピング税や相殺関税)を課している。

 戦争で消耗を続けながら国内経済の建て直しを課題とするオバマは、外国企業・外国との経済摩擦を拡大してでも、雇用のために輸入を削減し、輸出を増やさねばならないのである。このアメリカの内向きの政治は、同盟国との協力関係をも困難にする可能性がある。オバマの成否のカギは雇用の回復にかかっていると言える。