No.103(2009年12月号から)

リスク抱えるオバマのアフガン新戦略

増派と撤退をセットに再選狙う


 オバマ米大統領は12月1日、ニューヨークの陸軍士官学校で今後のアフガニスタン戦略について演説した。オバマはタリバンが次第にアフガニスタンの一定地域を支配し始め、テロ行為を働いているとして次の4つの点を明らかにした。

 第1に3万人の米軍追加派兵を2010年の前半に行う。
 第2に同盟国や国連、アフガニスタン国民と協力して、より効果的な民生支援を行う。
 第3にアフガニスタンでの成功は、パキスタンとの協力が密接不可分であるとの認識に立って行動する。
 第4に新戦略に伴うコストは年間300億ドル程度になる。

 オバマが大統領に就任した当時イラクとアフガニスタンの戦費は1兆ドルに迫っていた。したがってオバマはイラクからの撤兵と、アフガニスタンへの増派を大統領選で公約して当選したのである。

 彼は今年春にアフガニスタンへの2万1000人の増派を行ったが、アフガニスタンの戦況は悪化し、マクリスタル司令官がさらなる増派(4万人)を求め、今年夏以来3ヶ月間戦略の見直しを進めてきたものである。

 今回の3万人増派で、アフガニスタンの駐留米軍は9万8000人となる。この兵力でゲリラの掃討と治安を確保し、政府軍を強化・育成して、1年半後に撤退を開始する、というものである。

 すでにアメリカ国民の多くがアフガニスタンからの撤退を支持していることから増派とセットで出口戦略を示さざるを得なかったのである。つまりオバマはイラクとアフガニスタンから名誉ある撤兵を実現した形で次の大統領選を迎えるという再選戦略を明らかにしたわけである。

 アメリカ経済は未だ不況の中でイラクとアフガニスタンの戦費はアメリカ経済の重荷となっており、さりとて敗北のまま撤兵することはイスラム原理主義を勢いづかせることになるので米軍増派を選択し、選挙前に撤退のシナリオを選択したものである。

 しかしアメリカ軍が約10万人になったからといって、ゲリラ勢力(タリバンやアルカイダ)に勝てる保証はなく、逆に犠牲が増加すれば、ベトナムの二の舞となる可能性も出てくる。つまりオバマの今回の増派は危険な賭けであり、オバマは“火中の栗を拾う”ことになる可能性が強い。

 アフガニスタンの人々は米軍とNATO軍が住民に犠牲を強いていることに幻滅しており、しかも腐敗と不正のカルザイ政権に反発している。国民の支持のないカイライ政権を担いで泥沼の戦争を10年も続ける価値があるとも思えない。

 オバマは同盟国の日本や欧州に負担を求めようとしているが、各国とも経済危機にあり「貢献」には限界がある。戦争経済のアメリカは戦争継続が経済再建に必要かも知れないが、他の同盟国はいずれもアフガニスタン介入の失敗を見通しているのである。

 一説ではタリバンの兵力は約2万人に増えており、ゲリラの掃討にはその12倍の兵力が必要で、オバマの3万人の増派ではタリバンの壊滅は不可能と見られる。つまりオバマの戦略は大きなリスクを抱えているのである。

 米軍が18ヶ月で撤退すると分かっているなら、武装勢力は力を温存し、米軍撤退後に政権を握る戦略も可能であろう。

 タリバンはオバマ演説を受けて「増派は我々の抵抗を強めるだけだ」との声明を発表している。タリバンは地盤であるアフガニスタン東部と南部に加えて北部でも米軍を攻撃するなど「全土の80%」で勢力を拡大中という。つまりオバマの増派は兵力の逐次投入で抜き差しならぬ局面に陥る可能性があると見るべきである。

 日本政府は11月にアフガニスタンへの50億ドルの民生支援を発表したが、米政府が増額を要求してくる可能性が強まっている。

 欧州諸国もNATOとして追加増派の調整を進めているが慎重論も根強くあり、特にドイツ、フランス両国は慎重な姿勢を示している。

 国民の支持がない腐敗した政府にいくらテコ入れしても成功しないことはベトナムで証明されたことである。オバマの新戦略は、いかにも折衷主義的で増派と撤退を足して2で割ったものにしかすぎず失敗は避けられない。日本政府はそのことをアメリカ政府に助言することが本当の同盟国としての役割というものである。