No.102(2009年11月号から)

オバマはアフガニスタン撤退を決断できるか?

長期の戦争で病むアメリカ


   11月5日アメリカ・テキサス州の陸軍フォートフット基地で戦地へ派遣直前の軍医少佐が銃乱射事件を起こし、兵士ら約40人が死傷した。

 ブッシュ時代に始めたイラクとアフガンでの戦争が丸8年を超え兵士の戦地への派遣が4度目5度目という米兵すら珍しくない中で、アメリカ兵の心の傷が拡大し、精神的に病み疲弊しつつある深刻な実態が表面化したといえる。

 アメリカの陸軍兵士の自殺者数も増えている。今年の自殺者は10月末で134人に上り、過去最悪を上回るのは必至となっている。

 おりしもオバマ大統領がアフガニスタンへの増派の規模を、どの程度とするか、それをいつ発表するかが、マスコミの注目点となっていた時でもあった。またアフガニスタンで実施されたカイライ大統領選挙で現職のカルザイ大統領派の大規模な不正行為が露呈し、アメリカの世論が嫌気が差して、撤兵へと流れを大きく変えつつあった時でもある。

 そうした中での今回の陸軍基地での銃乱射事件は、全米に深刻な衝撃を与えているのである。

 アフガニスタン駐留米軍のマクリスタル司令官は「米軍増派がなければ、8年間のアフガニスタン戦争は失敗に終わる」との報告書を公表したことも民主党内やNATO諸国にえん戦気分を高める結果となっている。

 アメリカの世論調査ではアフガニスタン増派への反対がすでに50%を超えており、オバマの増派を支持するのは共和党タカ派だけという状況になっている。したがってアメリカ世論が今回の銃乱射事件で大きく撤兵へと傾斜する中ではオバマは米軍増派を発表しにくくなっている。

 マクリスタル司令官はアフガニスタンへの最大4万人規模の増派を求めている。しかしアメリカ世論は急激に撤退論へと変わりつつある。といって米軍が撤退すればタリバンがアフガニスタンを支配し、その後パキスタンがイスラム原理主義の攻撃を受けることは必至となるので軽々しく撤兵はできないのである。

 「アフガニスタン政府」の中身がカルザイらの権力ブローカーらの腐敗が表面化し、また米兵が病み・疲弊している実態が表面化して、アメリカ国民のえん戦気分の広がりで、オバマ大統領が撤兵へと転換する可能性は少なくない。

 しかしアフガニスタンでの敗北はイスラム原理主義を世界中で勢いづかせる危険がある。オバマが増派による戦争継続を選択するか、それとも撤退か、いずれもリスクが大きすぎるのである。

 オバマが、増派か、それとも撤退か、いずれも決することができず、アフガニスタンの民生支援を強化する第3の戦略を打ち出すかも知れない。

 一般的にゲリラ戦の掃討は、ゲリラ戦力の12倍以上の戦力を必要とするが、NATO軍と米軍で約10万、ゲリラのタリバンが1万5000人と言われている。しかしNATO軍は犠牲を恐れて戦力として機能していない中で、米軍はゲリラ戦力の5倍の兵力しか無いのである。

 オバマは大統領選で戦争継続・増派を主張したので、増派したいのだが、局面はそれを許さない方向へと流れているのである。したがってオバマがアフガニスタンの民生重視、穏健派タリバンの懐柔策に転ずる可能性が生まれている。

 今世界が注目しているのは、アメリカ本土での陸軍基地内での銃乱射事件がオバマのアフガニスタン戦略にどう影響するのか、という点である。

 オバマのアフガニスタン戦略いかんで日本の民主党政権の「反テロ戦争」への貢献策も大きな影響を受けることになる。オバマは難しい決断を迫られている。