No.100(2009年9月号から)

泥沼化するアフガニスタン

オバマ外交の行き詰まりと限界示す


   オバマ米大統領は今年3月末に「アフガニスタン包括的新戦略」を発表し、アフガニスタン駐留米軍を2万1000人増派し、NATO加盟国合計約10万人へと外国部隊を増強した。この増派によってアフガニスタンの大統領選を成功に導き、カイライ政府軍と警察を増強することで政権を安定させようとしたが、この新戦略は早くも破綻に直面している。

 アフガニスタン安定化のための米軍の掃討作戦の激化で今年7月の米兵死者数が月別で過去最多の43人に達し、現場からは戦闘部隊増強の必要性が高まっている。イギリス国防省によればアフガニスタンにおける英兵の死者が204人となり、イギリス国内では撤兵の声が高まっている。

 アフガニスタン駐留外国軍にとって脅威となっているのは、見えない敵が路上に設置する簡易仕掛け爆弾(IED)である。爆弾を利用したこのIEDは、未舗装の道路が多いアフガニスタンでは有効であり、予測では今年は約5700回に仕掛け爆弾が増えると見られている。この仕掛け爆弾は携帯電話による遠隔操作で爆破させるタイプが増えているという。

 NATO欧州連合軍のスタブリディス最高司令官(米海軍大将)は「治安状況は極めて深刻」と語り、マレン米統合参謀本部議長は「情勢は重大で悪化していると考えている」「武装勢力タリバンの戦術は巧みになり、高度化している」と語った。また8月20日に投票されたアフガニスタン大統領選は大規模な不正が発覚し、政治的混乱は避けられなくなった。

 オバマ大統領はイラクから撤兵したが「アフガニスタンは必要から行う戦争」と言って増派したのだが結果は治安が一層悪化し、戦略の見直しに直面しているのである。駐留米軍は、見えない敵に対し、無人機によるミサイル空爆を続けているが、そのほとんどが誤爆で、民間人の死者が過去最悪に達している。

 アメリカのギャラップ社の世論調査機関によれば、今年8月26日現在のオバマ大統領の支持率は51%で1月の62%から11ポイント下がっている。不支持率は44%で1月の31%から13ポイントも上がったのである。この世論調査の支持率低下の原因は外交ではアフガニスタン、内政では医療保険制度改革にあると言われている。

 アフガニスタン駐留米軍のマクリスタル司令官は、8月31日戦況報告書をゲーツ国防長官に送付した。報告書の内容は発表されていないがマクリスタル司令官によれば「アフガニスタンの状況は深刻ではあるが、成功は達成できる。そのためには作戦の遂行戦略を見直すことが必要だ」と語っている。

 ゲーツ国防長官は同報告書について「我々が改善できる余地がある分野を指摘するものだ。」「今後も厳しい戦いとなることは疑いの余地がない」と語った。駐留米司令官の言う遂行戦略の見直しが、米軍の増強を意味するのか?それともカイライ軍の増強を柱とした戦争のアフガン化を意味するのかは分からない。

 元々オバマ外交とは、ブッシュの単独行動主義から転換し、アメリカ経済の建て直しを優先するため一時的な息継ぎの和平を目指すものであった。したがってその特徴は「多極協調外交」で、いわば“八方美人外交”とでも言うべきものである。

 核廃絶を主張したプラハ演説、イスラム世界との和解を訴えたカイロ演説、ロシアとの関係改善を提案したモスクワ演説、いずれもオバマの現地の人々の受けはいいが、耳障りのいい言葉が通用するのは一時的である。

 イスラム原理主義はパキスタンへと浸透を進めており、イランという補給基地を持つゲリラ勢力を基本的に軍事力でせん滅することは不可能である。つまりアメリカはアフガニスタンで行き詰まりと限界に直面しているのである。

 アメリカはタリバンをどのようにして交渉の席につかせるかが課題なのである。そしてそのためにはイランにどのような外交的布石を打つのか?パレスチナ和平とシリアの懐柔、これらを多極協調外交でおこなわなければならないが、外交には相手があり、簡単ではないのである。

 オバマ米政権の中心課題は経済・金融の建て直しであり、国民の内4600万人と言われる無保険状態の解消である。この問題は財政負担をめぐって国民間の対立を生む、そのためアメリカは当面外交で敵を作らないことを目指している。

 オバマの多極協調外交とは、いわばアメリカの弱さの現れであり、覇権主義の挫折からいわば“立ち直る時間稼ぎ外交”なのである。アフガニスタンにおけるタリバンの戦術面での高度化は、後ろにイランがいることを示している。

 パキスタン国内の戦場化は、アフガニスタンへの補給路を断つ狙いがある。アメリカはアフガニスタンでは攻勢に出ているが、戦略的には守勢に立っている。

 アメリカは、金融破綻の中で息継ぎの和平が必要だが、アフガニスタン・パキスタン・イラン・イラクをめぐっては、反米勢力も力を蓄えることになるので、アメリカはこの方面では戦争を放棄できないのである。したがってアメリカは反テロ戦争への同盟国の貢献を一層求め、自国だけが経済的に消耗・疲弊することを回避しようとする。ただし各同盟国とも今は不況の局面である。したがって多くを期待できない。ゆえにどう分析してもアフガニスタンの泥沼化は避けられそうもないのである。